においにうるさい妻、娘なりの理由

においを感知する仕組みは誰にでもあるが、においに対する敏感度は人によって異なる。それは、閾値(いきち)(ここでは、においに気づく最小値)が低いと敏感、高いと鈍感というように個人差があるためである。また、においに含まれる「においの種類/強度」といった情報を感じ取る能力の発達の度合いによって、においに対する判断力も変わってくる。

さらに、男女差もある。

「一般に、女性は男性よりも閾値が低く、敏感だといわれています。根拠に基づいた推論でしかありませんが、古来、男性というのは狩りに出かけるか、労働作業に従事するという活動をメインにしていたので、他人と密接に関係している状況になることが少なかった。そのため、においに注意するよりは、見たものを重視するように進化してきた。反対に女性の場合は、男性が狩りに出ている間は集落などに残り、狭い空間で他人と一緒に作業することが多かった。つまり、見た目よりもにおいに注意する環境で生活をしていた。このようにして、敵味方を、男性は見た目で判断し、女性は嗅ぎ分けることで生き残ってきたのではないかと考えられています」

においの感じ方は人間関係に起因するとも指摘されている。

「夫婦喧嘩をすると、妻はいつもより夫がくさく感じる、ということもある。また、思春期の娘が『お父さん、くさい』と言い出すのは、自分と同じにおいの存在との近親相姦を避けるメカニズムが働いているためとされています。そのため、もしも人から『くさい』と言われたら、誰に、どのようなタイミングで言われたかを考えながら対策を立てる必要がある。妻から『くさい』と言われた場合は、におい対策をするよりも、自分の行いを見直したほうが効果的かもしれない。娘に言われた場合は『年頃になったんだな』とうれしく思いつつ、冷静ににおいに関して対処していくということも必要です」

ビジネスの場面では、男性同士でも、相手のにおいを拒絶したくなることもあるようだ。

「職場における対人関係において、相手が自分とライバルになりそうな人の場合は、くさく感じることがあります。同じようにくさい、と感じても、親しい人の場合は許せて、そうでない場合は嫌な気分になる、という違いもあります。その理由は、1.2メートルくらいのパーソナルスペースを侵されていると感じるから。見たくなかったら目をつぶればいいし、聴きたくなかったら耳栓をすればいい。しかし、においは呼吸する以上、ガードすることができないため、非常にきつくなるのです」

▼女性がにおいにうるさいのには、太古からの理由があった!
大昔、男性は屋外で狩りをするのが主な仕事で、嗅覚よりも視覚が重要だった。一方の女性は、集団生活内でうまくコミュニケーションをとっていく必要があったため、そばにいる仲間のにおいを敏感にかぎ分けるようになった。