運用会社と投資信託購入者に生じるすれ違いとは?

「フルインベストメント(フル投資型)」をさらに詳しくご説明します。その意味するところは、ファンドの資産(資金)をフル(full)に投資する。つまり、できるだけ現金を持たずに、ファンド資産の100%近くまで株式などを組み入れるという基本姿勢のことです。

福田猛『投資信託 失敗の教訓』(プレジデント社)

この基本姿勢によって、株式組み入れ比率は常時9割以上を維持しているケースがほとんどです。この比率は株式市況に関係なく、常に高い比率を維持しています。

そのため、多くの個人投資家の方たちは、「運用を担当するファンドマネージャーが株式市場の下落を想定する場合、なぜ株式投資比率を下げてくれないのだろうか?」と、運用会社に疑問を持つでしょう。その疑問に対する答えは、「投資信託購入者は投じた資金を増やしてほしいと望んでいるのに対して、運用会社はベンチマークを上回る運用を目指しているから」です。

多くの株式投資信託の場合、何らかのベンチマーク(日経平均株価・東証株価指数等)が設定されるのが普通です。「当ファンドは日経平均株価を上回る投資成果を目指します」などと書かれていた場合、ベンチマークは日経平均株価指数となります。運用会社はこのベンチマークを上回る運用を目指すのであり(相対的な上昇)、絶対値での資金の増加を目指すわけではありません。このため、運用会社と投資信託購入者に大きなすれ違いが生じるのです。

運用会社から見ますと、株式投資信託の購入者は「株式への投資」をすでに決めており、運用会社へ託したのは「ベンチマークを上回る成果を出すこと」になります。裏返せば、購入者は株式投資にかかるリスク(つまり市場下落リスク)も同時に負ったことになります。

そのため、運用会社はベンチマークを上回ればよく、ベンチマークが日経平均株価なら、日経平均がマイナス35%下落し、運用ファンドがマイナス20%の下落で済めば、差し引き「プラス15%勝った」ことになります。これがベンチマーク運用です。

運用会社がファンド内の株式比率を大胆に動かさないのは、株式自体への投資を決めたのはあくまで購入者であり、その意思通りに行動しなければならないと考えているからです。現金比率を運用会社が勝手に変えた場合(株式ウエートを下げる場合)、購入者の意思に反した行動を取ってしまうことになります。投資信託購入者は、この前提をよく理解する必要があります。

投資信託に疑問を持っていた中村さんは、「投資家は元本を増やしてほしいのに、『運用結果がマイナスでもベンチマークには勝っていますよ、良かったですね』では納得ができない」ということで、フル投資型投資信託を売却しました。その代わりに、相場環境にかかわらず、プラスの運用成果を目指す絶対収益型投資信託に投資対象を切り替えました。

「私にはベンチマークに勝つとか負けるとかは関係ないのよ」という中村さんには、フル投資型投信は向いていないということです。フル投資ルールとベンチマーク運用について理解できていないがために、「投資信託を買って損をした」という人がたくさんいます。購入する前に、正しい理解をしていただくことが求められます。

福田 猛(ふくだ・たけし)
ファイナンシャルスタンダード代表取締役
大手証券会社を経て、2012年に金融機関から独立した立場で資産運用のアドバイスを行うIFA 法人ファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。資産形成・資産運用アドバイザーとして活躍中。2015年楽天証券IFAサミットにて独立系アドバイザーとして総合1位を受賞。著書に『金融機関が教えてくれない 本当に買うべき投資信託』(幻冬舎)がある。
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