専門家の常見氏は「ブラック企業みたいな自治体」
採用・労働事情に詳しい千葉商科大学専任講師の常見陽平氏は、今回の元職員男性の解雇に対して「これくらいの根拠で解雇というのは職権乱用と言ってもよい。勤務態度の報告書を読んでも決定的な解雇理由もない。こんなブラック企業みたいなことを自治体でやってもいいものなのか」と憤る。
「気になったのは2点。1つは振込期限が定まっていない補助金の振り込みが遅れたことをもって『町の信用を失墜させた』というもの。これは根拠が薄弱すぎる。そもそも、試用期間中の彼のミスの責任を取るのは上司であり、監督責任が問われるべきです」
「2つ目に、『忘れていた』と『伝えそこねていた』の言い方を訂正させるのはやりすぎ。しかも何度も書き直せるのはパワハラと言われても仕方がないでしょう。親戚や両親に彼の業務態度やプライベートな下着のことを伝えるのはセクハラ・パワハラであるだけでなく、職場情報の不当な開示とも言えます。また『合議を取ってから行動しなさい』という指摘は明らかな後出しジャンケン。辞めさせる根拠を集めるための文書にしか思えません」
「副町長の印が押してある日報もあるうえ、新人を解雇することに町長も同意しているので、まるで町役場をあげて彼を追い出そうとしたように見えます」
「酔った勢いで、田舎の閉鎖性を批判したのかもしれない」
業務日報の指摘への違和感に加えて、常見氏はそもそも町側に「大きく問わなければならない点がある」と言う。
「仮に元職員の男性が著しく物忘れが激しく、仕事ができないなら、なぜ町は面接でそれを見抜けなかったのか」
本山町は男性の部署異動を試みることなく解雇した。
男性は就職した当時を振り返る。
「入庁してすぐ歓迎会がありました。そこで酔いすぎちゃって、あまり覚えていないのですが、共産党の悪口を言ったり閉鎖的な田舎を批判したりしたそうなんです。他にもいらないことをいろいろと言ったのかもしれません。そのころから、職場での関係は悪くなりました。つらかったけど、初めての社会人生活で、社会人とはこういうものなのだと自分に言い聞かせて耐えてきました」
町への熱い思いを胸に就職した男性は、現在同町にどのような心境を抱いているのだろうか。
「今はリベラルな印象を町に対して持つことはできません。今後の進路はじっくり考えようと思います」