知らない間にお客様が見えなくなっていた

【下平】たとえば以前から、私たちは店舗を「見える化」するシステムをグローバルで持っていました。膨大なデータがあり、現状のお客様の状況もわかる。おそらく今でも世界トップクラスです。ただこれはすべて、店舗を通して見た内部のデータです。ビジネスが厳しくなった時に立ち返ったのは、「我々はカスタマーファーストでやってきたけど、本当に直接的にお客様のことをわかっていたのか?」ということです。

永井孝尚『売る仕組みをどう作るか トルネード式仮説検証』(幻冬舎)

──知らない間に、内部の視点だけになっていた、と。

【下平】その通りです。たとえば当社の品質管理には絶対の自信がありました。しかし、どうしてお客様に品質管理について信用していただけないのか。そこで第三者の専門家にご意見を伺いました。品質管理のシステム自体は素晴らしいものだとは褒めていただいたのですが、「それだけで満足していませんか? ちゃんとお客様に伝えていますか?」と言われました。

──品質管理をじゅうぶんに伝えきれず、風評被害拡大につながったのかもしれませんね。

【下平】事実を深く見ることが出発点でした。たとえば2015年にお客様が30%も減りました。それでも以前の70%のお客様が来店されている。ではどんなお客様が来店されているか? 当初、何があってもマクドナルドが好きというお客様にご来店いただき、来店いただけなくなったのは値段が一番、というお客様だろう、と思っていました。さらにお客様の声をお伺いしたら、事実は逆。マックが大好きなお客様が離れていました。「最近マックらしさがない」「楽しくなさそうだ」「働いている人も元気がない」という厳しいお言葉でした。ショックでしたね。

──いわゆるロイヤルカスタマーが離れていたのですね。

【下平】これは、考えを根本的に改めてお客様に寄り添わないと復活はないぞ、と思い知らされました。たとえば私たちはレストランなので、もちろんお店はきれいにしていたつもりでした。しかしお客様の期待はもっと高くて「マックは汚い」「スマイルがまったくない」「あいさつできない」というお叱りもたくさんいただきました。そこで2015年4月に発表した4つのビジネスリカバリープランの最初は〈よりお客様にフォーカスしたアクション〉と決めて、オペレーションの改善等、細かいアクションを数百項目。すべてお客様のご期待にお応えすることにしました。

汚い感じだったモップは、「使い捨てモップ」に変更

──具体的には?

【下平】たとえば専門家のご指摘があった品質管理では、お客様にQRコードで商品の原材料をご確認いただけるようにしました。また「マックは汚い」というお客様のご意見をよくお聞きしましたので、根本的な解決が必要だと判断し、古くなった内装の店をフランチャイズの皆さんにご協力いただいて何百億円も使って全店改装を進めました。

──そういえば、お店も清潔になったように感じます。

【下平】マクドナルドの基本理念QSCの一つである「クレンリネス(清潔さ)」も徹底的に見直しました。たとえば以前は、「客席に清掃道具を置くと清潔感がなくなる」との考えで、客席内にほうきとちり取りは置きませんでした。ピーク時間帯には多くのお客様が来店して食事をされますので、ピークが終わってから清掃していました。その時は正しい判断だったと思っていますが、今のお客様のご期待はもっと高くなっています。お客様がお食事されたあと、次のお客様がテーブルについてポテトのひとかけらでも目に留まることがあったら、その時点でアウトなんです。

そこで客席に置いてもよいように、小型のこぎれいなほうきとちり取りを開発しました。私たちは店舗スタッフを、船のスタッフにたとえて「クルー」と呼びますが、クルーが常にポーチに清掃道具を入れて持ち歩き、ゴミをすぐ掃除するようにして、その様子もお客様に見えるようにしました。モップも汚い感じがするので、小さい使い捨てモップを開発し、お客様に見えるようにしました。このようにクレンリネスについても「見える化」しました。さらに清潔さの徹底と快適な食事環境を目指し、全店禁煙のコミュニケーションも強化しました。