「日本とアジアでは貨幣価値が違いますからね。お客さんは入ってもやるたびに赤字です。いいモノを見せたい。喜んでもらいたい。機材も日本から持ち込みますから回収は10分の1程度でした」

そんな谷村のアジアにおける活動を、中国は注目していた。2002年の日中国交正常化30周年記念コンサートのプロデュースを依頼されたのだ。谷村の志に賛同した、浜崎あゆみ、Gacktも参加して、4万5000人もの観衆を集め、大成功を収めた。このコンサートが契機となって、谷村は04年、上海音楽学院の常任教授に就任する。

「この音楽学院は、中国の二大音楽院の1つです。生徒数は約2000人。100年の歴史を誇り、そうそうたるクラシックの音楽家を何人も輩出しています。生徒はもの凄い倍率を競って入学してきますから、めちゃめちゃ優秀。何で俺が選ばれたのかがわからないよね(笑)。

就任前、校長に聞きに行ったんですね。すると『谷村さんは、音楽で1番大切なのは何だと思いますか』と、逆に質問を受けてしまいました。『音楽は理論や技術も大切ですが、1番大切なのは“心”です』と答えると、『その通りです。だからこそあなたにお願いしたんです』。もう、うれしくてね、意気に感じました。

ここで、現代音楽の教鞭を執っていますが、今年、初めて教え子が卒業しました。『谷村先生のように中国と日本の架け橋になりたい』と、言ってくれる子が何人もいて、それはそれでうれしいんですが、僕としては、もっと大きく羽ばたいて、世界の架け橋になってくれたらと思っているんです」(文中敬称略)

(山川雅生=撮影)