「客員研究員」では臨床の経験として不十分

このため私は、神奈川県立がんセンターで重粒子線治療を受けられる患者さんに、安全で良質な医療を提供するには、N医師に放射線医学総合研究所病院での1年間の研修を受けていただくことが最善の策であると判断した。客員研究員では臨床の経験として不十分だからだ。

この判断に対し、大川伸一病院長(当時)は「理事長は必要のない研修に行かせた」と職員に説明し、黒岩祐治神奈川県知事は「公共性の高い事業を担う機構に理事長として、十分な資質を有していない」と断定した。その結果、平成30年3月6日付で、私に対して理事長解任を通知してきたのである。

千葉県がんセンターや群馬大学医学部附属病院では、未熟な医師の手術により死亡事故が起きた。重粒子線治療においても、国の示す最低限の資格もない医師が、「実施責任医師」となったままでは、大きな事故が起きる恐れがあった。

神奈川県は120億円をかけて重粒子線治療施設を整備しており、稼働率を下げるわけにはいかなかったのだろう。だが、稼働率確保のために、患者の安全が軽視されることがあってはならない。私は理事長としてそう判断した。読者のみなさんは、神奈川県の判断をどう受け止められるだろうか。

土屋 了介(つちや・りょうすけ)
医師
1970年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院、日本鋼管病院、国立療養所松戸病院、防衛医科大学校、国立がんセンターなどを経て、2006年に国立がんセンター中央病院院長。2010年同院長を退任。2012年公益財団法人がん研究会理事、2014年から18年まで地方独立行政法人神奈川県立病院機構理事長。
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