中国人がみんなキンキラキンが好き、ではない
――中国ではウィーチャット(微信)のパワーがすごいですね。日本では「インスタ映え」が流行語になってますが、中国人もSNSでの見え方を意識しているのでしょうか。
はい。ここ数年、定着したネット用語に「顔値(イェンジー)」があります。もともとは顔の偏差値のことで「彼女は顔値が高い(美人)」というように使いましたが、徐々に見栄え全般に使われるようになりましたので、日本でいう「インスタ映え」みたいなものですね。
たとえば、雑誌『行楽』で取り上げて人気が出たもののひとつに、金沢の「金箔のかがやきソフトクリーム」があります。ソフトクリームの上に10センチ四方の金箔を貼ったものですが、顔値が高い。900円もしないのに、これだけのインパクトがあれば、申し分ありません。写真に撮って、友だちに自慢できちゃいます。
――そうなんですか。私は『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』の中で、あるプチ富裕層の若い女性が、日本の空港で見かけた金箔入りのお酒を指して「中国人がみんな金色、赤色、ハデハデが好きだと思わないで」といったと書いています。あるお酒のパッケージが金色と赤色で、ボトルの中には金粉が浮いていました。外国人向けのおみやげ品として空港で売られていたもののようなのですが、彼女によると「私はこういうものは好まない。ステレオタイプで中国人を見ないでほしい」という意見だったのです……。
その通りだと思います。若い中国人女性は金粉が浮かんだお酒なんて買わないでしょうね。日本人がイメージする中国のデザインによく赤や金が使われていますね。ホームページのデザインやプロモーションでもその傾向があるのですが、それをプチ富裕層が望んでいるかというと、そうではないと思います。
ただ、金箔のソフトクリームの場合は、金沢の名物のひとつが金箔で、それが食べ物であるソフトクリームに乗っている、というところが中国人から見たらおもしろく、顔値もいい。写真映えがして、すばらしいという意味ですね。中島さんが取材した女性がいったように、中国人がみんなキンキラキンが好き、という意味とは違うんですよ。
――ああ、やはりそうですよね。ご著書『日本人は知らない中国セレブ消費』の中には宿泊先についての興味深い記述もありました。高級ホテルは中国の大都会のほうが圧倒的に多いので、プチ富裕層は日本では旅館を選ぶことの方が多い。とくに温泉旅館には魅力を感じているというところです。
やはり、温泉旅館は「ザ・日本」という感じで、何もかも新鮮な文化体験になるからです。旅館に着くと、女将さんや仲居さんが膝をついて迎えてくれますよね。あれは中国では考えられない光景で「別の国に来たんだな」と実感する瞬間なんです。玄関で靴を脱ぐところからして、おもしろく感じます。