再分配の方法を変えるだけでは不十分
ベーシックインカムによって生活できるだけの所得を保障することで労働力の移動を促したり、起業のリスクをとりやすくしたりするといった議論もありますが、これは実質的には失業保険を充実させるということと同じです。となるとやはり財源の問題に突き当たります。北欧など高福祉国の一部では、高額な失業給付をランプサムで給付するよりも、職業訓練を受けることに対してお金を払う方式に変えてきています。
ただ単に生活を支えるというより、次によりよく働けるためのお金として限定したほうが再就職には効果があるということです。ランプサムで生活費が給付された場合でも稼げばもっと増えるので、働く意欲は落ちないという意見もあります。しかし、働く意欲があっても、能力がなければ稼げる仕事にはつけません。ベーシックインカムなど、社会保障制度による再分配の方法を変えるだけではその能力の底上げにはつながらないというのがわたしの考えです。
柳川範之(やながわ・のりゆき)
東京大学大学院経済学研究科教授
1963年生まれ。88年、慶應義塾大学経済学部通信教育課程卒業。93年、東京大学大学院博士課程修了。経済学博士。96年、東大助教授。2011年より現職。『法と企業行動の経済分析』『東大教授が教える独学勉強法』など著書多数。
東京大学大学院経済学研究科教授
1963年生まれ。88年、慶應義塾大学経済学部通信教育課程卒業。93年、東京大学大学院博士課程修了。経済学博士。96年、東大助教授。2011年より現職。『法と企業行動の経済分析』『東大教授が教える独学勉強法』など著書多数。
(聞き手・構成=プレジデント社書籍編集部)