好きなことだけで「複数の仕事」をする

【原】さらにミクロな話になりますが、現場の個々の動き方についてはどうでしょうか。トヨタの現場で衝撃的だったのは「動き」と「働き」の違いを強く意識させられたことです。

【玉塚】「動き」と「働き」の違い?

【原】はい。上司に言われたことを言われたとおりにやっているだけではただの「動き」だ、と。動きではなく「にんべん」をつけて「働き」にしろ、ということです。ここで言う「にんべん」というのは「人間の知恵」のことで、いかに目の前の仕事に人間として知恵を付加できるか。まさに“付加価値”という話ですね。昨今は「AIに仕事を奪われる」というような話もよく耳にしますが、IT業界に移った玉塚さんとしてこの動きはどうご覧になっていますか?

【玉塚】AIの領域がものすごいスピードで広がっていくのは誰の目にも明らかですが、敵対視するのではなく「技術と友達になる」という視点がものすごく大事だと思います。

【原】すると人間が出せる価値というのは“AIをいかに使いこなすか”というところに出てくるわけですね。

『ACTION! トヨタの現場の「やりきる力」』(原マサヒコ著・プレジデント社刊)

【玉塚】そう、AIは使い倒さないといけない。その使い方やリソース配分や経営戦略というのは人間が考えるわけです。意思決定を行ってリーダーシップを発揮しマーケットを創造する、ということは人間じゃないと出来ない部分ですからね。

【原】なるほど。もう1つ、トヨタの現場では「頑張るということは汗を多くかくことではない」という言葉がありました。これはつまり、行動の「量」と「質」の話です。長い時間を会社で過ごして汗をたくさんかいて“働いた気”になるのではなくて、「時間当たりの質」にフォーカスしなさい、と。それがつまり頑張るということなんだと。

【玉塚】それはもう、仰る通りですね。今話題になっている残業抑制も「ダラダラやってる10時間を密度の高い8時間にしましょう」ならいいんだけど、そうもなっていないのが現状ですよね。量だけにフォーカスした残業抑制という動き自体については賛否両論あると思いますが。

【原】確かに減らした方が良い局面が多いかも知れませんが、ベンチャー企業などを見ると皆さん仕事をするのが楽しくて楽しくて、身体を壊さない程度のギリギリまで仕事に没頭していたりしますものね。

【玉塚】そうそう。原さんも肩書きに捉われずWEBマーケティングもやったり講演したり執筆したりと色々なお仕事をされているようですが、これからは原さんのような人がたくさん出てくると思うんです。好きなことだけで複数の仕事をするという。でもそれって、時間なんて関係なかったりするわけじゃないですか。

【原】その通りです。楽しすぎるのでいつまででもやってしまいますね。

【玉塚】そういった複数のアクションが横で繋がっていったりして、好きな仕事で楽しい時間が連鎖すれば、そこは一律に時間で区切ってしまう話じゃないわけです。意欲のある人や優秀な人はマルチタスクで動いていって、仕事からのリワードがあるならそれでいいじゃないですか。

【原】仕事の報酬は仕事、ということですね。

【玉塚】ぜひ若い人には、そんな仕事を見つけて没頭していって欲しいものですね。

玉塚元一(たまつか・げんいち)
1962年、東京都生まれ。旭硝子を経て、1998年にファーストリテイリングへ入社。2002年、同社の代表取締役社長に就任。2005年、事業再生や経営支援を手掛けるリヴァンプを設立し、代表取締役に就任。2014年、ローソンの代表取締役社長に就任。2017年6月、ハーツユナイテッドグループの代表取締役社長CEOに就任するとともに、同年10月より、同社の主要子会社であるデジタルハーツの代表取締役社長も兼務。
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