本当の敵は安倍政権ではなく政治的無関心

2週間の運動で感じたことは、「本当の敵は安倍政権ではなく、政治的無関心ではないか」ということだ。千葉5区の投票率は49%だった。投票日に台風が来たこともあるが、半分以上の人が投票していない。

街頭では、思わず政権批判に力が入るが、これにうなずいてくれる人の多くは投票に行く。安倍政権の支持者も同じだろう。新安倍・反安倍とかでなく政治に期待しない、関心さえない人に、われわれの訴えはどこまで届いているのだろうか。

投票しないからといって、暮らしに満足しているわけではないだろう。政治や選挙よりもっと大事なことがあるのかもしれない。現状に不満があっても、政治に期待しない人も多いことだろう。駅前や街頭で訴え、チラシを配り、握手を求め、さまざまな有権者と接しながら、世のひずみや不運をもろに受けている人ほど、政治から遠ざかろうとしているようにも思えた。政党の周辺にいる人は選挙に熱くなるが、遠くの人にその熱は届かない。遠巻きにする人とどう接点を持てばいいのか。

市民が動いて政治から距離を置く人を巻き込む

ヒントを感じたのも今回の選挙だった。政党や後援会が組織だって動く選挙ではなく、事務所を訪れた「普通の人」が、創意工夫で応援したのが今度の選挙だった。そんな中で子供を抱える「ママの会」の女性たちは頼もしかった。核家族で育児や家事・仕事の追われるママたちは、世の矛盾を一身に受けている人たちだろう。

女性が主導した選挙ボランティア(市川ママの会はとてもパワフル)

孤立する彼女らは、困りごとをSNSで発信して支え合っている。子供の容体や保育の不満などを携帯でやり取りしている。自分の前にある現実を何とかしたい、そんな思いで、「政治が変われば、と思ってきました」という女性を中心に、仲間がどんどん集まった。ツイッターで応援団を募集し、参加できる時間を登録してもらい、仕事を割り振る。事務所に来られなくても、「電話勝手連」のソフトを使って在宅でも応援ができる。参加することで、友人に呼びかけを拡散する。

応援演説ではなく、街頭で「青空座談会」を開いてツイッターで中継するとか、素人が始めると、政党では考えられない活動が始まる。政党がいると引いてしまう人たちが、自分たちがイニシアティブをとると独創的な発想が出て、隣にいる人たちに感動が伝わる。そんな市民選挙が終盤になって盛り上がった。

「野党と市民の共同候補」が私のキャッチフレーズだった。政党は政党で動き、それとは別に市民が自分たちで運動を展開する。その広がりが、政治から距離を置く人を巻き込む原動力になる、と確信した。この経験をどう伝えてゆくか。これが課題だと思っている。

山田厚史(やまだ・あつし)
デモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員。1971年朝日新聞入社。青森・千葉支局員を経て経済記者。大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員。ハーバード大学ニーマンフェロー。朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。2000年からバンコク特派員。2012年からフリージャーナリスト。CS放送「朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなどを務める。
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