11月9日、トランプ米大統領が韓国と朝鮮の軍事境界線である「DMZ(非武装地帯)」の電撃訪問を試みたが、悪天候のため断念した。一方、13日には北朝鮮軍の兵士がDMZを越えて韓国側へ亡命をはかり、北朝鮮軍の銃撃を受けて負傷した。いつ発砲があってもおかしくない危険な場所に、なぜトランプ大統領は立ち入ろうとしたのか。DMZとはどんな場所なのか。軍事ジャーナリストの宮田敦司氏が解説する――。
バリケードが設置された非武装地帯の板門店(写真=AFP/時事通信フォト)

トランプ大統領は「電撃訪問断念」

11月5日から14日にかけて、トランプ米大統領がアジア5カ国を歴訪した。このうち韓国には2日間滞在。この間に、朝鮮半島を分断している非武装地帯(demilitarized zoneの略/以下、DMZ)を視察し、北朝鮮に最も近い地域で、同国へ強いメッセージを送ることが予想されていた。

トランプ大統領のDMZ視察は、事前に報道陣に示された日程にはなかった。7日の首脳会談の席上で文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の提案により急遽決定し、8日朝に訪れることにした、とされている。トランプ大統領は、ヘリコプターで現地へ向かったものの濃霧のため引き返すことになり、視察は実現しなかった。

「電撃訪問断念」とメディアは報じたが、警備上の問題を考えると、「電撃訪問」ではなく事前に計画されていたと考えるほうが自然だろう。トランプ大統領も、必ず訪問したいと考えていたはずだ。朝鮮半島のDMZは、米国の大統領にとってそれだけ特別な場所だといえる。

米国大統領の強い意志表明の場

朝鮮半島のDMZは、半島を南北に分断する軍事境界線(全長248キロメートル)に沿って、南北にそれぞれ約2キロメートルの幅で設定されている。軍事境界線は朝鮮戦争の休戦ラインで、ここを象徴するのが直径約800メートル円形の板門店(パンムンジョム)共同警備区域である。

板門店には1953年7月27日の休戦協定に基づく「中立国監視委員会」と「軍事休戦委員会」の本会議場が設置され、休戦協定の遵守状況を監視している。板門店共同警備区域は国連軍司令部が管轄しており、韓国にも北朝鮮にも属さない特殊な地域となっている。

朝鮮戦争(1950~53年)がいまだに休戦状態であることから、この場所は、米ソ両陣営の対立による冷戦の象徴とも最後の遺物ともいわれている。同時に、DMZは南北合わせて約150万人もの地上軍が厳しく対峙する「最前線」でもある。

緊張した雰囲気が漂う「最前線」で北朝鮮へ向けて米国大統領が発する言葉は、北朝鮮に対する米国の強い意志の表明となる。首脳会談の席上での発言や、国会議事堂でのスピーチとは違った重みがある。

ロナルド・レーガン大統領(在任1981~89年)以降、ジョージ・ブッシュ大統領(父)を除いて、訪韓した米国大統領全員がDMZを視察している(ブッシュ大統領はレーガン大統領時代に副大統領として視察している)。朝鮮半島のこの場所は、それほど米国大統領にとって重要な位置づけなのだ。