恋人にスリッパを履かせるかで大激論

【田原】IoTのガジェット?

【武地】スマートフォンにつける鳥型のガジェットです。事前にアプリへ自分の趣味などを登録しておき、同じ趣味の人が近くに来るとそのガジェットが光って教えてくれます。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】開業資金はどうしたんですか。

【武地】自己資金に加えてクラウドファンディングで資金を募りました。会社を立ち上げるときに60万円、もう1回40万円で、計100万円です。

【田原】で、売れましたか?

【武地】いや、まったく(笑)。でも、結果的によかったのかもしれません。失敗したので、次はどうせなら夢のあるチャレンジをしようと考え、会社のスローガンを「クレイジー・メーカー」に変更。超クレイジーなものをつくってみたくて、好きなキャラクターと一緒に暮らせる「Gatebox」の開発を始めました。

【田原】これ、つくるのは簡単じゃないですよね?

【武地】ハードウエアだけでも難しいのですが、制御するソフトウエアに苦労しました。さらに大変だったのはモデルの制作です。ただの絵ではなく3Dで動かすので、開発にはかなりのお金と時間がかかりました。

【田原】武地さんはつくる技術を持っていらしたんですか。

【武地】いや、何もないです。最初にあったのは、キャラクターと一緒に暮らしたいというビジョンだけ。それを突き詰めて投資家さんから資金を調達したり、つくれる仲間を集めたりました。

【田原】ビジョンに賛同して集まってくれた仲間も、おそらくキャラクター好きな人たちですよね。こだわりが強すぎてモメませんでしたか?

【武地】モメます、モメます。オリジナルで「逢妻ヒカリ」というキャラクターをつくったのですが、スリッパを履かせるかどうかでメンバー3人の意見が割れて、深夜の日高屋で5時間激論しました。僕は「家のなかでスリッパは履かない」派でしたが、ほかの2人は「履いたほうがかわいい!」。最終的に押し切られて、エプロン姿のときは履くことになりました(笑)。

【田原】完成して売り出したのはいつですか。

【武地】16年12月に300台の予約販売を開始して完売しました。価格は29万8000円。限定品で、本格的なセールスは来年以降になります。

【田原】日本語対応のみ?

【武地】海外からもたくさん問い合わせをいただいていますが、いまのところ日本語のみです。ただ、いずれ外国語に対応するつもりです。

【田原】アメリカには、こういうものはないんですか?

【武地】ないですね。アメリカは、やはり便利を追求する方向なので。いまのところ世界では僕たちだけです。

会社を売っちゃったんですか?

【田原】もう1つ聞きたい。今年3月にLINEとの提携を発表しましたね。会社を売っちゃったんですか?

【武地】売ったという意識はないです。「Gatebox」をよりよくするためには、LINEさんと組んでリソースを活用させていただいたほうがいいだろうという判断です。

【田原】どうしてLINEは自分たちでつくらなかったんだろう。

【武地】LINEさんも人工知能の開発をしていますが、知能を磨いていく方向ですよね。一方、僕たちはかわいいかどうかという見た目にこだわって開発を積み重ねてきました。表現力に関しては他社も簡単に追いつけないはずです。LINEさんも独自でアプローチしづらい部分に、僕らの強みがあったということだと思います。

【田原】「Gatebox」はBtoCの商品ですね。企業のプロモーション用とかBtoBの展開はしない?

【武地】事業用に展開する可能性はゼロではありません。ただ、いまはそちらを押し出す気持ちが薄いです。当面は、個人のパートナーをつくるためにはどうすればいいのかという点に頭を使いたいです。