不動産王・王健林の「非理性的」な投資

この「非理性的」という表現は、表面上は企業活動を考慮したようにみえるが、実際上、こうした行為をおこなうと、国のタブーに触れてしまうことになる。これに関して、万達グループの王健林代表の例を見ていこう。

ブルームバークの報道によれば、万達グループの海外投資総額は2500億元(約4.1兆円)に達すると言われ、その投資プロジェクトは米国、欧州、豪州、インドにまたがり、ホテル、映画産業、エンターテイメント施設、奢侈品の買い付けなどが含まれる。なかでも同グループが買い付けたクロード・モネとパブロ・ピカソの絵画は、目玉が飛び出るほど高額だった。

同集団は短期間に2500億元という巨額の資金を、どこから調達したのか。はたして同集団にこれほどの自己資金があったのか。

メディアの概算統計によると、2016年末現在までに万達グループ対するメイン取引銀行の予信限度額は3629億元(約6兆円)に達し、このうちすでに実施済みの借入額が1448億元(約2.4兆円)で、2180億元(約3.6兆円)が未使用になっていた。同グループは5年前から海外M&Aに着手したが、金融機関各社は競ってローンの提供に乗り出した。この融資を後ろ盾に万達グループは世界中で買いに走った。つまり、資金は銀行から獲得したローンだった。王健林代表が声高に自慢したような「みずから苦労して稼いだ資金」ではなかったのである。

ここで王代表が弄した金融テクニックは説明しないが、簡単に言えば、万達グループと王代表は国内で「元」で債務を背負い、保有するのは海外の「米ドル」資産なので、資産を海外に付け替え、「移転」した形となっている。復興グループも万達グループと同様の方法を採用した。

こうした行為を、中国の外貨準備高が大幅に減少するなか、政府の監督管理部門がどうして容認できるというのだろうか。

にらまれる産業、にらまれない産業

最近、万達、復興、安邦各グループに対して、政府の査察、もしくは監督が入ったといううわさが絶えない。ただ、これらグループの海外投資状況を細かく検討してみると、たとえば美的集団(ミデア・グループ)や建設機械、重機を生産する三一重工、自動車部品メーカーの万向グループなどの大規模海外投資に比べて、規模はそれほどでもない。

「万達グループの王健林代表らが巻き起こした世論が、政府に目を付けられた」という訳ではないようだ。これより以前、福耀玻璃(ガラス)グループの曹徳旺代表は米国で大規模投資を行ったが、政府から何らの問責もされなかった。

大胆に推論すれば、カギとなる問題は「理性的」とか「非理性的」などということではなく、中国政府には最初から計画があったことがうかがえる。その計画に従わなかった者は厳罰を受けるのである。

では、その計画とは、なんだろうか。国家発展改革委員会のスポークスマンが明確に表明しているように、それは第一に「一帯一路」プロジェクト、2番目は「国際生産能力提携プロジェクト」であろう。