1年先行したアストラゼネカの事例

では、どうすれば、PFは軌道に乗るのだろうか? カギを握るのは、PFを前向きに捉え、生産性アップの経営戦略に組み込もうとする企業の姿勢だろう。そこで、参考となるのが、PFを先取りしたような、製薬大手のアストラゼネカの「ハッピーライフフライデー(HLF)」という取り組みだ。

写真=amana

HLFは、大阪本社と東京オフィスの内勤社員を対象に、毎週金曜日の16時終業を推奨するもので、16年3月から実施。同社は「働きがいのある職場」づくりに不可欠なワークライフバランスの実現に注力し、職場の環境改善、効率化ツールとともにHLFを導入した。同社執行役員人事総務本部長の舛谷隆直さんは次のように説明する。

「当社はフレックスタイムを採用していますが、日本では周囲の目を気にするので、現実には自由に早帰りしにくい職場環境になっています。そこで、HLFを設定し、早帰りの習慣化を後押しすることにしたのです」

HLF実施後の1年間で、対象社員の約7割が金曜日の早帰りを経験した。

「金曜日の午後にプライベートの予定を入れる社員が増え、社内の会議室は金曜日夕方の利用が3分の1に減りました」(舛谷さん)。ただし金曜日に早帰りしても、別の日に残業したのでは生産性アップにつながらない。

ところが、HLF導入後の月平均残業時間(16年3~10月)は19.3時間で、前年よりも1.7時間減少した。「HLFがきっかけの一つになって、社員が業務を効率化し、不要な残業を減らそうと努めた結果でしょう」と、舛谷さんは見る。

同社薬事統括部の木村伸子さんも、HLFを有効活用している一人。HLFの社内イベントとして、16年9~12月に行われた実用書道教室に参加した。

「フレックスタイムや在宅勤務も活用していますが、さらに毎週決まった時間が取れたことで、念願の書道が再開できました。無心になれるのでリフレッシュできるし、集中力も上がります。他部門の人との交流も広がりました」

一方、HLFをうまく活用するには、管理職と社員のコミュニケーションも重要だという。同社メディカル本部オンコロジー領域部部門長の橋上聖さんは、部門の全スタッフと年1回は個別に面談、「部下の仕事量を把握し、適正な配分を心がけています」と話す。

橋上さん自身は、毎月第3金曜日に「HLF推進会」という名の食事会を主催。部門を超えた自由参加で、毎回平均15人ほどが集まり、16時30分から深夜までざっくばらんに話し合う。社員同士の親睦や理解が深まるので、全体の生産性アップにも役立つ。「部をまとめるという私の仕事も効率的に果たせています」と、橋上さんは笑う。