そのような場合には、「不服申立て」をすることができる。その結果、国が誤りを認めて、不支給決定が取り消されたり、不服申立てが正式に認められたりすることが、私の経験上からも一定数はある。不服申立ては二審制で、社会保険関係については二審目の結果、23%が認められている(2015年度)。黙っていては損をする――それが障害年金だ。

障害年金は「保険」制度

今回は、うつ病の事例を紹介したが、障害年金は原則としてすべての病気やケガをカバーしている。脳卒中、リウマチ、がん、難病、腎臓、肝臓、呼吸器、心臓、人工関節置換、人工肛門造設などでも、障害年金が支給される。また「発達障害」のようなケースでも、就業が困難であると証明できれば受給の対象になる。

障害年金は、「社会保険」の最も典型的なものだ。誰でも、明日には障害を持つかもしれない。それにより仕事を失ったり、収入が途絶えてしまったりすることに対して、みんなで助け合う仕組みだ。もちろん保険料を払っていなければ受給資格はないので、後ろめたい気持ちをもつ必要はない。

障害年金は国の広報不足で、その名前すら知らない国民が3割以上いる。医師も病院も役所も、なかなか教えてくれない。どの程度の障害で障害年金が支給されるのかが曖昧だし、制度が複雑で、行政の窓口でも間違った説明がなされることもとても多い。自分や家族でできるだけ調べてみること。そして、それでも難しいと思ったら、専門の社労士などに相談することだ。

誰もが使う可能性がある

障害年金を知っていても、幼い頃から障害がある人だけに対する給付だというイメージが強いかもしれない。でも、「社会保険」である障害年金の対象はもっと広い。今は障害がない人も、事故や病気など、障害を持つことになる可能性は誰でもあるのだから、障害年金があることはぜひ知っておきたい。

社会全体で助け合って、障害となった人の生活を支えていくそれが、いざというときの安心になる。その安心は一人だけではなく、みんなをつなげ、社会へと広がっていく。障害年金は社会が生きやすいものとなるための大事なツールなのだ。

安部敬太(あべ・けいた)
1960年生まれ。安部敬太社会保険労務士事務所代表。社労士として、障害年金の請求、障害年金不支給の不服申し立てを専門とし、これまでに1000件を超える代理請求をこなす。『障害年金 審査請求・再審査請求事例集』『新訂版 詳解 障害年金相談ハンドブック』(いずれも共著)など執筆も行っている。
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