会社には3つの市場と3つの評価の場がある。1つ目が「競争市場」と「長期利益」、2つ目が「資本市場」と「株価」、3つ目が「労働市場」と「働きがい」だ。長期利益があるから株価が上がり、働きがいも出てくるため、この3つは相互に関係している。その中でも、ここでは「長期利益/競争市場」に注目したい。
稼ぐ力を社外に求めるのか、社内に置くのか
私が事業の稼ぐ力を考えるときに大切にしているのが「オポチュニティ企業」と「クオリティ企業」とを対比する視点だ。この2つでは、稼ぐ力の軸足に違いがある。事業は、大小さまざまな利益機会、すなわちオポチュニティに囲まれている。機会は現れては消えいく。変化する収益機会をうまく捉えて動くことに勝負をかけるのが「オポチュニティ企業」である。オポチュニティ企業においては本社の力が重要で、機会の出現に合わせて、機動的に行動を組み上げていく。そこでの儲かるロジックは、「先行者利益」と「規模の経済」。誰よりも早くオポチュニティをつかみ、成長を追求する。いち早く機会を押さえれば、利益は後からついてくるという構えだ。
どの国・地域にも高度成長期がある。そのときに前面に出るのは、この「オポチュニティ企業」だ。人口が増え、所得が上がり、消費も増え、道路ができる高度成長期には、次々とオポチュニティが出てくる。
一方の「クオリティ企業」は、会社の中で作る独自の価値に軸足を置き、そこに利益の源泉を求める。ここでの「クオリティ」が意味するのは、お客さまに価値を作って届ける経営と戦略の質のことであり、ものづくりやサービスのきめ細かさではない。成熟経済の主役はクオリティ企業である。成熟した経済状況では、オポチュニティがあまり出てこないため、稼ぐ力が内部にシフトし、その会社の戦略ストーリーこそがクオリティ企業の利益の源泉になってくる。
もちろん、日本のような成熟経済下でも産業でオポチュニティを捉える企業はある。ソフトバンクは日本最強のオポチュニティ企業といってよい。オポチュニティとクオリティの違いは良しあしではなく、あくまでも儲けるために持っているロジックが異なるということだ。(後編に続く)