2015年11月、「いじめられたくない」と日記に書き残して茨城県取手市立中学3年の中島菜保子さんが自殺しました。この問題で、これまで市の教育委員会は「いじめの有無が確認できない」としていましたが、5月30日、一転していじめを認め、「遺族に対し配慮に欠けた判断だった」と両親に謝罪しました。市教委が一変した背景には、文部科学省の指導がありました。なぜ教育現場は「事なかれ主義」に陥るのか。フジテレビ解説編集部シニアコメンテーターの鈴木款さんが読み解きます――。

調査メンバーはすべて中高年の男性

「なぜいじめと認めなかったのかおしえてください」

5月31日、謝罪に訪れた取手市教委の幹部に、菜保子さんの父親は言った。実は教育長が両親に会うのは、この謝罪が初めてだった。父親は「なぜ会ってくれなかったのか。ことがこれだけ進んでから、やっとこうやって出向くのはいかがなものか」と訴えた。

取手市教育委員会公式サイトより

菜保子さんは亡くなる前、日記に「いじめられたくない」と悲痛な思いをよせていた。寄せ書きには、「うざい」「くそ」などと書かれており、いじめがあったと証言する友人もいた。

これらの資料は取手市教委に提供されていたにもかかわらず、市教委は去年、「いじめにより心身に大きな被害があったとする重大事態に該当しない」と議決した。なぜなら、市教委によるアンケート調査の結果、「いじめとは確認できるものはなかった」からだ。

議決後、立ち上げた第三者委員会は、女子中学生によるいじめの疑いが強かったのにもかかわらずメンバーはすべて中高年の男性で、女性も入れてほしいとの両親からの要望は聞き入れられなかった。

「いじめがなかった」ことが前提

第三者委員会の調査は、「いじめがなかった」ことを前提にすすめられ、聞き取り調査では、いじめの有無よりも、「ピアノを嫌がってなかったか」「コンクールがうまくいってなかったか」など、菜保子さんが2歳から習っていたピアノについての質問が多かったという。

両親から第三者委員会の解散を求められた文科省は、「普通に考えて明らかにいじめそのもの」と認め、市教委の姿勢を「アンケートでいじめという記述が無かったから、いじめはないという決めつけは極めて不適切」だとして再調査を指導した。すると市教委はそれまでの態度を一転、いじめを認めて「自殺したことそのものが重大事態だった」と議決を撤回した。文科省の指導後、取手市の教育長は会見を行ったが、議決撤回の具体的な理由は示さず、「不適切だった」と繰り返すばかりだった。