パリに暮らし、精力的に創作活動を続ける辻仁成氏。最近は料理上手なシングルファーザーとしての顔も注目されている。渡仏15年、彼はなぜパリで暮らし続けるのか。シングルファーザーになって仕事のやり方はどう変わったのか。「仕事・子育て・パリの暮らし」について聞いた。

作家、ミュージシャン、映画監督といくつもの顔を持つ辻仁成さん。近年は、パリで一人息子を育てながら精力的な創作活動を続けている。そんな辻さんの9作目となる映画監督作『TOKYOデシベル』が公開中だ。原作は、『音の地図』という小説で、1996年には三島由紀夫賞の候補にもなった。映画では、東京中の音を集音し、解析して“東京の音の地図”を作る大学教授と、その恋人、謎の女、一人娘をめぐる不協和音を、多面的に東京をとらえた美しい映像を背景に描く。

映画の公開にあわせて日本に戻った辻さんは、原作小説を執筆した当時のことをこう振り返る。「バンドを始めた20代の頃、深夜にボーッと窓を開けていたら、波の音が聞こえたんです。『あれ、海なんかあったっけ……』と窓の外を見たら、遠くに高速道路があって。深夜、車が1台サーッと走ると、波みたいに聞こえるんですよ……」。

パリに拠点を移して15年。海外生活を経て、今の辻さんの目に映る東京の姿はどう変わったのだろうか。映画について、パリでの生活について、子育てと仕事の両立について、ざっくばらんに語ってくれた。

若い頃「カッコいい」と思った東京と、今僕が見る東京は違う

――小説として世に出てから約20年。今、なぜ『TOKYOデシベル』の映画化だったのでしょうか?
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『TOKYOデシベル』ユナイテッド・シネマ豊洲ほかにて公開中 http://tokyodecibels.com/(C)「TOKYO DECIBELS」製作委員会

【辻】2011年の東日本大震災のとき、停電で東京が真っ暗になりましたよね。すごい事態になったなと思いながら、昔のようにホテルで東京の音を聞いたんです。『音の地図』を思い出して、「これ、今撮らなきゃダメだな」と思ったんですよ。

もう15年パリに暮らしています。だから、日本に帰ってくるたびに異邦人みたいな感覚になっていて……。25年くらい前の、函館から出てきた辻青年が見て「カッコいい」と思った東京と、今パリから帰ってきて僕が見る東京は違うんですよ。

パリに住んでいると、フランス人の友人たちが「東京はカッコいい!」って言うんですよ。僕は「どこがいいの? あんなごちゃごちゃした街?」と思うんだけど(笑)。新宿・歌舞伎町のごちゃごちゃした感じなんかを、みんな「すごくカッコいい」って言う。でもこの感覚が、だんだんわかるようになってきたんですよね。きっと日本人が気づかない、東京人が知らない東京みたいなものがあって、それを撮りたかった。だから最初、『東京デシベル』は“外国の人に向けた東京マップ”みたいな映画になるのかなと思ったんです。でもできてみると、「日本人に向けた、東京を新しく発見する映画」になったんじゃないかなって思います。