日本郵政 次期社長 斎藤次郎(さいとう・じろう)

1936年、旧満州国生まれ。59年、東京大学卒業後、旧大蔵省入省。主に主計局畑を歩み、大臣官房長、主計局長を経て、95年まで大蔵事務次官を務める。2009年10月、日本郵政次期社長に内定。


 

「デンちゃんは、こわもてだけれど、一対一で付き合うととろけるような笑顔をみせる。天性の人たらし」

旧大蔵省時代の部下が“デンちゃん”と親しみをこめて呼ぶのは、日本郵政の新社長に抜擢された元大蔵事務次官の斎藤次郎氏のことである。10年に1人といわれた元大物官僚の素顔は、喜劇役者・大宮敏充演じるキャラクターの「デン助」に似た愛すべき上司だったという。

長い付き合いという亀井静香・郵政改革担当相に「ほかに人がいない」と請われて、「日本郵政丸」の舵を握ることとなった。しかし、その人柄を慕う人たちですら「最も官僚らしい“ミスター官僚”。民主党の脱官僚主義に反する人事では」と懸念をもらす。

おもに主計局畑を歩み増税派だった。竹下内閣時代、内閣官房副長官の小沢一郎氏と出会い意気投合。主計局長だった宮沢内閣時代には自民党幹事長だった小沢氏らとともに「国際貢献税」、大蔵次官だった細川内閣時代にやはり小沢氏とともに「国民福祉税」構想をぶちあげた。社会の空気を読まず大蔵省理論で思い切った増税方針を打ち出す豪腕は反発をまねき、これらの構想は頓挫したが、そこにいたるまでの人心掌握術、交渉能力、調整能力のすごさは広く知られるところとなった。次官辞任後も、その人脈は健在で2007年11月に一時的に持ち上がった福田内閣と民主党の大連立構想にも一枚かんでいたといわれる。

会見では「退任から15年たっており官僚の意識はない」と言い切った斎藤氏。適任かどうかは議論の余地があろう。だが、郵政が完全公社化に突き進むのか、民営化路線を原則維持するのか、その方向性も定まらないなか、天性の人たらしの人心掌握術と交渉能力が必要とされる機会は多そうだ。