収入は3分の1でも「物欲から解放された」
豊かで優しい里山の自然に囲まれて、家族の笑顔が素晴らしい。
廣田充伸(43歳)が、妻と子供3人を連れて、東京から栃木の山間部に移住してきたのは、05年4月のことだった。当時、長女は小学6年生、長男は小学3年生、次男は3歳だった。
東京にいたときには、廣田は局地気象のコンサルタント会社に勤めていた。送電線に積もる雪の量や風の影響を調べたり、新しく送電線を敷設する地域の気象条件を検討する仕事である。
「半分は現場に入って山歩きをし、半分はパソコンに向かってレポートをまとめるような具合でしたね」
東京理科大学の山岳部にいた廣田にとっては、まさに「天職のような仕事」だった。ただ職場は忙しく、朝は10時出社だが、帰りはいつも終電。職場で知り合った奥さんも「終電に乗っている8カ月の妊婦なんてほかにいないよねー」という具合だった。
長女を自宅出産するときも、助産婦さんに「もうすぐだよ」と言われながら、廣田は会社にファクスを送っていた。さすがに2人目、3人目のときは、それぞれ1カ月の育児休暇を取ったが、それがすぎるとまた元の生活に戻ってしまった。
「なんか、もう少し子供と接する時間が欲しいなあと思いましたし、田舎で暮らすことには、家内も賛成でした」