固定費を削減して「筋肉質経営」に
社員が経営者の意識を持ち、組織の全員で稼ぎ、しっかりコスト管理していく「アメーバ経営」(部門別採算性)が稲盛式経営の根幹です。家計も一つの組織なわけで、家族全員が「自分が家計を担っている」という自覚を持つことが肝心です。
ところが家計は「特別な存在」という意識を持っている人が非常に多く、企業レベルでとらえると「アメーバ経営の概念は必要だよね」と納得する人が、家計についてはその視点が欠落しがちです。ほとんどの人はなんとなくやっていればお金は貯まるし、普通に生活ができると甘く考えています。しかし、ライフプランを実現したい、貯蓄をしっかりしたいと思うのなら、よっぽど工夫をしないと難しいでしょう。
社員の経営者意識を高めるために稲盛和夫氏は、企業の経営状態や実績を社員にもわかりやすく理解できるように、様々な経営テクニックを導入しました。その一つに「企業を永遠に発展させ続けるためにも、常に活性化され、引き締まった肉体にしなければならない」という、「筋肉質経営」があります。
これは私がいつも相談者に言っている「固定費を削減する」ことと同じです。「もっと豊かになりたい」という欲望や見栄のために固定費は、知らず知らずのうちに贅肉のように増えていき、家計を圧迫する要因になります。
家計でいう固定費は、給料からの天引きや銀行口座から自動引き落としされるもの。住宅や車のローン、保険などがこれにあたりますが、多くの家庭では出費を抑えるツボが間違っています。おかずを減らして食費を安く上げたり、夫の小遣いを減らしたりして、目先の細かな支出から抑えようとします。
これは家族からの不満が出やすい抑え方。小遣いが減れば夫のやる気が損なわれ、医療費を削れば収入を支える自分たちの体を壊しかねません。逆に固定費から削っていけば、生活レベルの低下を実感することなく、経営改善に取り組むことができます。
具体的には、住宅や車のローンを金利の低いものに借り換え、保険は本当に必要なものに絞ります。固定費を減らすことは損益分岐点が下がるわけで、筋肉質な家計に変わります。
JALの再建などで稲盛氏が強調したのは企業が「フィロソフィー」(経営哲学)を持つことの重要性です。「フィロソフィーとは、企業に人格(社格)を与えるもので、素晴らしい社格とは、人間としての正しい生き方が示されていなければならない」と示されていますが、人として正しい「哲学」をもとに「全員参加型経営」を実現するための骨格になるものです。