阿部さんカップルは、インターネットの宅配サービスを利用し食材を安く仕入れて自炊したり、夕飯の残り物を冷凍して平日の弁当にするなど、いざというときの節約術も心得ている。

普段は、退社時間の早い阿部さんが先に帰って食事を作り、犬の散歩がてら玲さんを駅まで迎えに行く。休日は公園やマンガ喫茶で過ごしたり、近所の焼き鳥屋で1杯飲むのが定番だ。素朴で、それでいてセンスのいい暮らし方を提案するマガジンハウスの雑誌「クウネル」を地でいく生活を送る2人は、「幸福だよね」と口を揃える。もっとお金を稼ぎ、いい暮らしをしたくはないのか。

「正社員になって仕事の責任が重くなったり、強いプレッシャーを感じるのはイヤです。だから今のままの派遣社員でいいです。責任が軽い分、正社員よりも給料が安いのは仕方ない」

この言葉だけ取り上げると、責任を回避する若者像が浮かぶが、2人とも「祖父母にお金が回るように」と年金を払い、投票にも必ず行く。「時間のゆとりを持って生きたい」という明確な意思を持ち、身の丈に合った現状を選んでいる。

「もちろんこの生活が一生続くとは思いません。結婚もするだろうし、子供が生まれたらこの収入じゃ足りないだろうし……。ただ、それは変化があったときに考えたい。今、正社員になっても、それほどメリットがあるとは思えないんです」

2人には家賃や光熱費を引き出す共通の口座があり、お互い余裕があるときに入金している。玲さんの収入減少に伴って額も減り、現在、口座に残るのは30万円。しかし貯金の少なさを気にすることなく、2人は帰宅すると今日起きたことを話しながら、美味しそうにビールのグラスを傾ける。

「高収入を稼ぎ、結婚して妻を養う」金井さんに対して、阿部さんはその手のプランを描かずに生きている。それは無計画というよりも、フレキシブルに対応した結果に見える。

「稼ぎが多い者こそ勝ち組」――その常識を見直すときが近づいているのかもしれない。