一方、金井さん夫婦(http://president.jp/articles/-/210)と対照的な暮らしを送るカップルがいる。通信会社に派遣社員として勤務する阿部智(仮名)さんと、給与計算の代行会社で正社員として働く玲さんだ。現在、30歳の2人は、東北の同じ都市出身で高校の同級生。上京後、再会して意気投合し、同棲生活は4年目に突入した。
2人が住むのは、23区内にある新築マンションの2階。ペット可の物件で、部屋のドアを開けると愛犬のミニチュアピンシャーが威勢よく飛びついてくる。棚には音楽鑑賞が趣味である阿部さんのレコード2000枚が積まれ、奥には一緒に買ったスポーツタイプの自転車が仲良く2台並ぶ。オートロック完備の瀟洒な一室は、1DKの間取りで家賃は14万円ほどだ。
「僕の月給が手取りで23万円、彼女が20万円ほどだから、家賃はちょっと高いかもしれません。でも犬を飼いたかったし、2人の月給の3分の1には収まるから、まあいいかなと」と明るく語る阿部さんは、専門学校を卒業後、大手レコードショップに契約社員として勤務。バイヤーを任されやりがいを感じていたが、手取り14万円の月収に限界を覚え、4年半で退社した。それから半年の無職生活の後に就いた仕事は、現在で3年目に。
彼女である玲さんは地元の短大を卒業、上京してwebデザインの会社に入社した。しかし経営不振から給料が滞ったため退社し、その後は短期の派遣業を転々とした。3年間働いた建築会社では契約社員に昇格するも、不況が直撃して人員整理の対象に。ようやく手に入れた正社員の職は、前職に比べて月収が7万円ほど落ちた。
2人の生活は、阿部さんいわく「いつもギリギリ」で、その一因は金銭に対するルーズさにある。昔から手元の金をすぐ使ってしまう阿部さんは、給料が入って飲みに行くと、気分が高揚し他人の支払いまで済ませ、近距離でもタクシーを使う。結果、月末は余裕がなくなり、集めたレコードを売って当座をしのぐことも。しかし、そんな阿部さんに、玲さんが心配の視線を送ることはない。
「お金を借りてまで使うのは困るけど、阿部君はお金がないときは実家の農家からお米を送ってもらってしのいだり、なければないで暮らせる。それはそれで楽しいんです」