人間よりも知能の劣るAIの方が興味深い

――AIが人間の知能を超えて、人間の社会に大きな影響を及ぼすといわれていますが、どんなことが起こるのでしょうか。

人間よりも知能の劣るAIの方が興味深いと思っています。人間ほど知能は発達していないが、人間のように自律的に行動のできる知能はもっている。そしてある程度自分で、決定を下すことができるものです。たとえばパイロットではなくロボットの操縦する飛行機にあなたは乗りますか。乗らないという人の方が多いと思いますが、実際にはすでに全自動で操縦ができるようになっています。ボーイング777やエアバス340は人間だけでは操縦できません。エールフランス447号機の事故(大西洋上に墜落した墜落事故)はロボットのせいでした。最高の知能をもったAIが引き起こす事件・事故はすでに現実の問題になっています。私たちの生活に出回り始めている初歩的なAIやロボットといったものと人間がしっかりとコミュニケーションをとれるようにすることが喫緊の課題なんだと思います。本当に近い将来、世界的な銀行など大企業が社内で使っているAIとコミュニケーションがとれずに倒産するようなことが起こりうると思います。今からそうした問題に取り組んでいれば、将来絶大な知能をもったAIが到来したときにも対応できる体制ができると思います。

――シンギュラリティが起こることで、これまでの仕事が半分以上はなくなってしまうという話もある。

スタンフォード大学のセンター・フォー・アドバンスド・スタデイズで仕事の未来に関する調査の共同責任者をしたことがあります。プロジェクトを始めた当初は、シンギュラリティによって仕事がなくなり、人間の未来に暗い影を投げかけるようなことはないと思っていましたが、もしかしたらそれは間違いではないかという不安も持っていました。しかし研究を終えた段階でそれが確信に変わりました。2025年の最大の経済問題は失業問題ではないと思います。むしろたくさんの新しい仕事ができるので、労働力が不足するのではないかと思います。この問題は長々と議論する必要はありません。1930年にジョン・メイナード・ケインズが書いた『わが孫たちの経済的な可能性について』を読めばわかります。

――すでにシリコンバレーでウーバーの普及によってタクシーの運転手が職を失うという事態も起こっているようですが。

シリコンバレーでウーバーやリフトとタクシーとの利権争い問題記事がでましたが、全くのデマです。コンサルタントなどのいうことはあまり信用しないでください。私は1984年からシリコンバレーでくらしていますが、32年間一度も流しのタクシーを見かけたことはありません。つまりタクシーは電話で前日から予約してないと来ないのです。Door to Doorの空港へのシャトルバスも予約が大変でした。現在は飲酒運転もなくなりつつあり、ウーバーとリフトの経済効果は絶大です。

――シンギュラリティが到来するとどのような時代になるのでしょうか。

それは誰にもわかりません。それは予測ができないのではなく、みんなこれからの未来を一緒に発明するプロセスにあるからです。視点を変えて、未来がどうなるかではなく、どのような大きなショックがおとずれるか、という点から考えてみましょう。それは到来する速さによって左右される問題だと思います。シンギュラリティが明日到来したら大きなショックでしよう。しかしみんなで議論したのちだったら、20年間シンギュラリティが到来しなかったらどうか。それまでずっと議論していれば到来した暁にはそれほどショックはないと思います。