日本企業を変える発想【1】――何事も否定から入らない
IDEOはプロジェクトを必ずリサーチからはじめます。私たちが行うのは、気づきを得るためのリサーチなので、いわゆるマスの平均値を取る「マーケティングリサーチ」とは方法が異なります。多様な属性のユーザーの行動や感情を、時間をかけて対話をしながら深く観察します。
これは顧客のインサイト(潜在的欲望)を得るという狙いもありますが、同時に「共感」づくりのためでもあります。共感がなければ、「なぜこのプロジェクトを行うといいのか」というユーザーの本質的なニーズを見落としてしまいます。さらに、共感という腹落ち感があれば、現場の社員と意思決定をするマネジメント層のズレも起こりにくくなります。
たとえば、歯ブラシをつくるメーカーが「共感」を用いて商品開発を考えたとします。歯ブラシのユーザーである大人と子ども、それぞれの立場になることからはじめます。大人であれば指先で持つが、子どもというのは手のひらに近いところで持つ。大人と子どもでは根本的に持ち方自体が違うことに気づくでしょう。
過去の歯ブラシの歴史を遡ると、子ども用の歯ブラシの多くはただ単に小さくて、細いものばかりでした。しかしそれでは、子どもが手のひらで持つには不安定ではないか――。そうして生まれたのが子ども用の太い歯ブラシでした。実際にIDEOが手がけたプロジェクトの話です。