顧客へのサービス、接し方に変化が

マツダはこの体験コーナーのためこの会場にジャッキアップの設備を二台用意した。しかも、体験する子どものために、わざわざ小さなサイズのつなぎを用意して、整備を体験する子どもに対する演出にも心がけていた。おかげで、作業をする子どもの姿を見守る親の表情はみな、楽しそうだった。いやむしろ、自分が体験したいのに……というような表情にも見えた人が多かった。

子どもに限定した「整備、塗装職業体験」イベント。

対象を子どもに限定したこのマツダの意図は明確だ。マツダの製品を購入する今の顧客を大切にしながら、同時に将来マツダを支持してくれる顧客層を積極的に育てたいということだ。子どもにとって、このような普段あまり縁のない体験は、間違いなく大きなインパクトになるだろう。小さいときの印象深い経験は大人になっても記憶から消滅することなく、よく覚えているものだ。メーカーの立場からすれば、長期的な視点に立ったマーケットの育成・醸成ということになる。

この体験コーナーをながめていると、メーカーの顧客に対する直接的なサービス、また接触の仕方に変革が訪れているように感じられる。つまり、メーカー対顧客といういわば対立概念でその関係を捉えるのではなく、メーカーと顧客が同じ方向を向いている、いわば友だち感覚が醸成されているように思われる。顧客はクルマという製品を媒介にして、メーカーになにかを「してもらう」のではなく、クルマを媒介にしながら、なにかを「一緒にする」という感覚だ。その意味で、この整備体験に象徴される今回の「モノ造り体験」の企画は、マツダのマーケティングの手法に大きな質的変化が起こっていることを示している。

同社の執行役員で、営業領域総括でグローバルマーケティング・カスタマーサービス担当の青山裕大(あおやま・やすひろ)は言う。

「マツダが最近一貫して掲げている"人馬一体"というのは、マツダ車の購入を促すメッセージであるだけでなく、実際にマツダ車のオーナーになった方々が感じ取った感覚や体験にわれわれが耳を傾け、そしてお互いに語り合うための絶好のテーマにもなっています。この種の地道な活動を長期間続けていくことがブランド構築にとって非常に重要なのではないでしょうか」

今回の富士スピードウェイは、その活動がこれまでで最高の盛り上がりを見せた場となった。

マツダ社員の手作りによるさまざまな体験コーナーや歴史的なマツダ車の展示と並行して、会場の特設ステージで、経営陣や開発者によるトークセッションも開催された。

中でもその“目玉”となったのが、経営陣のトークセッションだろう。午後12時30分にそのステージにあがったのは、専務の藤原清志、常務の前田育男、そしてカスタマーサービス本部長の梅下隆一の三人だった。約400人の聴衆を前に30分間にわたって、それぞれの立場から、マツダのファンに語りかけた。

そこで、藤原は開発を統括する立場から、前田はデザインを主導する視点から、そして梅下は、サービス・マーケティングの立場から、「マツダの変革と将来に向かってのビジョン」を訴えた。

このマツダの変革とビジョンを語るとき、彼らにとってその語りの軸になっていたのがRX-VISIONだった。これは、昨年秋に初めて公開されたロータリースポーツコンセプト、つまりいわゆるコンセプトカーの名称であり、会場の聴衆もその“これから”について知りたいと、聞き耳を立てていた。前田はこれに言及し「ヨーロッパのデザイン賞を多数頂戴し励みになった。走る姿が美しいマツダならではのデザインをこれからも追求する」とRX-VISIONを核としたマツダのデザインの進化に自信をのぞかせた。