抽出するのでなくニーズは与える

そこで「本当に必要とされる営業マン」になることが大切になってくる。その際の重要なポイントは「お客さまのところへ何度も通う」こと。その場で既存の商品の売り込みは一切しない。その代わりに“お土産”として、お客さまにとって有益と思われる“情報”を持参する。

たとえば、繁盛している精肉店だったら、「あの店では牛肉を○○円で売っています」「この店では新しい産地の肉を仕入れて人気が出ています」といったライバル店の情報を提供する。毎日多忙な店主は自分でリサーチする時間の余裕がないので、耳を貸してくれる。繰り返し通ううちに打ち解けてきたら、「隣町の青果店と共同出資して、スーパーをつくりませんか」といった提案を行う。

要はお客さまのニーズを引き出すのではなく、営業マンのほうからニーズを提供するのだ。でも、たんに店舗の建設を提案するだけでは“失格”である。集客力のある立地の選定から、パート従業員の採用や育成などを含めて具体的な提案を行う。もし相続税対策の2世帯住宅なら、嫁姑の関係がうまくいくように配慮した間取りなどを併せて提示する。

ここまでくると、「信頼のおける営業マン」に“昇格”しているはずだ。しかし、まだ「本当に必要とされる営業マン」とはいえない。「確かに仕事が優秀で信頼できるんだけど、どことなく肌合いが悪くて信用できない。だから彼には任せられない」といった話をよく聞くだろう。

お客さまの信頼を得ようとして、要望を何でも聞き入れようとする営業マンをたまに見かけるが、私にいわせると間違いだ。人間の能力には限界がある。やがてその限界に達してギブアップした途端、お客さまは「私の信頼を裏切った」と不満を抱き、商談も破談になってしまう。

だから、私は細かい設計変更の要望を受けても、設計の素人であるし、安請け合いしなかった。正直に「わかりません」と話して、次回訪問する際に設計者に同行してもらい、「できる」「できない」をはっきりさせた。実はそうしていくことでお客さまに誠実さが認められ、「信頼のおける営業マン」から「より深い信頼を得た営業マン」へ“昇華”するのだ。