京都連続不審死事件を予言していた
「わたし、あんた看取ったるわ」「爺を騙すんは功徳や、ええ夢見られるんやからな」――。
この夏公開された映画「後妻業の女」の主人公・武内小夜子と、彼女と結託する結婚相談所の所長・柏木亨のセリフだ。妻に先立たれた資産家の老人の後妻に入る。そこで巧みに公正証書遺言を作らせ、みずからの手で死を早めて財産を根こそぎ奪う。
小夜子を演じるのは、大竹しのぶ。柏木役は豊川悦司だが、この2人の関西弁でのやりとりが小気味いい。まるで、悪女と悪党の上方漫才のようだ。「愛の流刑地」などで知られる鶴橋康夫監督の脚本は、作家・黒川博行氏の原作『後妻業』をおおむね踏襲している。だから、ややもすれば陰湿な話になりがちなシーンを、そのかけ合いによって笑いさえ誘い、社会問題を扱っているにもかかわらず喜劇性もあわせ持つ。
2年前、黒川氏の小説が話題になったのは、その内容と酷似した事件が京都で発覚したことによる。本の発売から2カ月半ほど経った11月19日、京都府警は夫に青酸化合物を飲ませて殺害したとして筧千佐子(当時67歳)を逮捕。彼女には過去3回の結婚歴と何人かの男性との交際歴があり、相手は不審死を含めて全員が死亡している。小説はまるで、この京都連続不審死事件を予言していたかのようだった。
筧は“平成の毒婦”とも呼ばれ、逮捕後の動静も逐次、新聞紙面などで伝えられていただけに、映画化は必然の流れだったのかもしれない。映画パンフレットに掲載された鶴橋監督のインタビューによれば「原作の冒頭で、関西弁で電話を受け取っている柏木のセリフを読んで、これは豊川悦司さんだとすぐさま思い、彼の名前を書き込みました。そして柏木と電話で話している女・小夜子は大竹しのぶさんというイメージがすぐに浮かんだんですよ」と話している。