be動詞を避ければ自然な英語に

「村上春樹は作家だ」「ヒロシは高校生である」という文はいずれも日本語として自然な言い方だ。さて、この文を英訳してみるとどうなるだろうか。

きっと多くの人は“Murakami Haruki is a novelist.”、“Hiroshi is a high school student.” という英文を思いつくにちがいない。

安武内ひろし氏

もちろんいずれも文法的に正しい英語だ。英語を習い始めた人でも知っているbe動詞を使った、「◯◯は――である」、というSVC構文である。「村上春樹は作家だ」、あるいは「ヒロシは高校生である」、という日本語を単語の一対一対応で、そっくりそのまま素直に英語に移し替えることができる。

しかし、文法的に正しい英語が、すなわち英語としてもっとも自然でネイティブの発想に近いものとは限らない。

実は「村上春樹は作家だ」は“Murakami Haruki writes novels”.(「村上春樹は小説を書く」)。同様に「ヒロシは高校生である」は“Hiroshi goes to high school.”(「ヒロシは高校に通っている」)のほうが、よりネイティブの発想に近い自然な英語なのである。

さらにいうと、「英語では、日常会話のほとんどの文がSVOという動作を表す他動詞を使った構文でできている」(安武内ひろし氏)のである。つまり、be動詞を使った英文を考えている限り、とてもネイティブのような自然な話し方はできないのだ。

英語の発想は「する」日本語は「なる」

日本語の「は」を安易にbe動詞に置き換えて英語を話そうとすると、まったく意味が通らなくなってしまうこともある。

たとえば「りんごは青森だ」という文章。つまり、「りんごといえば青森産のりんごだ」という意味だ。これはこのまま何も考えずに英語にしようとすると、りんご=青森、“Apples are Aomori.” と言いたくなるが、これでは意味が通じなくなってしまう。ネイティブが話す自然な英語では、“They grow great apples in Aomori.”(人々は 栽培する 素晴らしいりんごを 青森で)となる。主語(S)は人で、動作を表す動詞(V)、目的語(O)の順に並ぶSVOの構文だ。

もうひとつ例を出そう。「趣味は何ですか」と聞く場合を考えてみよう。おそらく日本人がすぐに思いつくのは“What is your hobby?”だろう。しかし安武内氏はこの表現は二重の意味で誤りだという。

「人を主語にして、“What do you do in your free time?”(あなたはお暇なときには何をしますか)という言い方にするほうがネイティブに近い自然な言い方になります。また、“hobby”は英語では何らかの技能を必要とする趣味のことを指します。初対面の人に、相手に特殊な技能があることを前提に質問するのはいかにも不適切でしょう」