人事異動には「出向」と「転籍」もある。いまいる会社とは別な会社で働く点では共通しているものの、従業員としての身分はまったく変わってしまうので注意が必要だ。出向の場合はいまの会社に在籍したままなのに対して、転籍の場合はいまの会社との法的なつながりは切れてしまう。つまり、実質的な「退職」といえるものなのだ。

「自分にオファーされているものが出向なのか転籍なのか、はっきりと確かめることが必要だ。転籍の場合、個人の同意なくして会社は一方的に命じることはできない。嫌なら嫌で、きちんと拒否してほしい」と谷社労士は語る。事業譲渡で自分の所属する部署が売却対象になった場合も拒否できる。

ただし、会社分割を行ったうえで他の会社に事業を移す場合には事情が異なる。労働契約承継法によって、会社分割の計画書で転籍対象者に含まれると拒否権が認められず、本人の同意がなくても転籍させることができるのだ。

最後に転勤についてであるが、配置転換と同じように就業規則に「業務上の必要がある場合には、転勤を命じることがある」という条項が含まれていることがほとんど。勤務地限定の契約を結んでいなければ、会社の命令に応じなくてはならない。

ただし、過去の判例で転勤命令の乱用が認められたケースがある。そこには、退職に追い込むことを目的にした場合や、組合員を目の敵にした場合などが含まれている。

会社が厳しいリストラ策を打ってきたとしても、自分の身を守る労働法関係の基礎知識を持っていれば、余裕を持って受け止めて対応策を練ることができる。さっとでも構わないので、関連の書籍に一度目を通してほしい。

<問い1> 業績悪化で工場の閉鎖が決まり、解雇されることになった。でも別の工場では人手が足りない状態だという。こうした場合でも解雇されるのか?
―整理解雇に当たって会社には回避に向けた努力が求められている。このようなケースでは、それを怠っていると考えられ、無効になる可能性が高い。

<問い2> 営業成績の不振を理由に解雇を言い渡された。本当にこれだけの理由で解雇が許されるのか?
―解雇の事由にはなるが、すぐに正当化されるわけではない。指導や配置転換などで能力向上を図ったものの、平均を著しく下回り、向上の見込みがないときに認められる。

<問い3> 主力製品が売れず、会社が給与を一方的に引き下げてきたのだが、こんな横暴が許されていいのか?
―給与の引き下げは労働条件の変更に当たり、従業員の合意がある場合に可能となる。よって一方的な引き下げは無効になる。

<問い4> 業績不振で残業代をカットするといってきたが、泣き寝入りするしかないのか?
―業績が悪くなったからといって、時間外労働や深夜労働に対する割増賃金の支払い義務がなくなるわけではない。

<問い5> 転勤を命じられたのだが、単身赴任となるので断りたい。はたして認められるのか?
―就業規則や労働協約に、業務の都合によって転勤を命じることがある旨が規定されていれば、それに従わなくてはならない。ただし、不当な目的で命じられたときは無効になる可能性が高い。

(宇佐見利明=撮影)