コンプライアンス(法令遵守)が叫ばれるようになったいまの世の中、業績が悪化したからといって、組合員のみを対象にしたような整理解雇に踏み切るような会社はまずない。不当解雇として法的な責任を問われる可能性が高いからである。「会社は厳格な要件のもとでしか適法に従業員を解雇できないことを覚えておいてほしい」と力説するのは、約1100人の登録弁護士を抱える「弁護士ドットコム」を主宰する元榮太一郎弁護士だ。

労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」としている。業績悪化にともなって経費削減を目的とした従業員の削減を行うことを「整理解雇」という。過去の判例では、この整理解雇を認めるかどうかの判断基準として4つのポイントを挙げている。

それは、(1)会社が著しい経営危機に陥っていて、どうしても人員削減の必要性があること、(2)解雇を回避するために会社側としても相当な努力を払っていること、(3)解雇される従業員の選定が合理的であること、(4)労働組合との間で解雇についての協議・説明義務がある場合は、それを果たすなど解雇に至るまでの手続きが相当なこと――である。組合員のみを対象にした整理解雇は(3)に引っかかるわけだ。

そこで会社側は、給与の1年分ないし1年半分といったような割増退職金をつけた早期退職制度を設けて、従業員のほうから手を挙げるように働きかける。しかし、新しい就職先を見つけにくい40代、50代の中高年ともなると、家族の生活を考えて躊躇してしまうもの。そこで、人事サイドや上司から「どうだろう……」と退職勧奨、いわゆる“肩叩き”が始まる。

「退職勧奨を受けたからといって、その場で安易に『わかりました』と返事をしてはいけない。退職勧奨には何ら法的拘束力がないのだ。もし辞めたくなければ、それを会社側に伝えるだけでOKである。少なくても『考える時間がほしい』と話し合いを打ち切るべきだろう」と元榮弁護士は助言する。

時には強引な退職勧奨を行ってくることだって考えられる。後々、退職を強要されたかどうかを法的に争わなくてはならなくなった際のリスクを考えると、どのような話があったのか記録を取っておくことが大切だ。もちろん重要な証拠になるからである。

労働トラブルの解決で多くの実績を持つ谷周樹社会保険労務士は「ベストなのはテープレコーダーやICレコーダーで録音しておくことだ。メモしか取れないのなら、『5W1H』を踏まえて、いつ誰からどのような勧奨があったのかがわかるよう明確にしておきたい」という。