「今後10年間で、日本の大学の1割が消える」と断言する著者の言葉に、まさかと思うかもしれない。しかし、昨年1年間で5つもの大学が学生の募集停止に追い込まれただけでなく、すでに私立大学の4割で定員割れが常態というのだ。
「確かに少子化の影響は甚大です。しかしこの危機を招いた最大の要因は、日本の大学が自らの“ミッション”を打ち立てられずにいることです」
諸星さんは、アメリカの大学で教育と大学経営の双方でキャリアを積んだ異色の大学人。帰国後はその経歴を買われ、さまざまな大学の新規立ち上げや学部改編に関わり成功させてきた。
そんな日本で数少ない「大学経営のプロ」が強調する“ミッション”とは、「うちの大学で学べば、こんな教育を受けられ、こんな人間として卒業できることを約束します」というもの。いわば大学が、学生や社会のニーズを踏まえたうえで必ず達成すると誓った、自らの「使命」だ。
諸星さんはこのミッションを軸に、今後日本の大学は、大きく3つの方向に特化すべきと主張する。1つ目は、世界最先端レベルの研究者を養成する「研究重視型大学」。2つ目は、社会の中核を担うバランスの取れた教養人を育成する「教養教育重視型大学」。そして3つ目は、大学全入時代を踏まえて、いわゆる“勉強のできない子”を鍛えて学力の底上げを図り、社会へと送り出すタイプの大学だ。
「卒業時には“てにをは”の正しい日本語が書け、3桁の割り算ができ、パソコンのキーボードが打てる。すなわち“現代の読み書きそろばん”を徹底させる大学があってもいいのです。それを自らのミッションと規定し、確実に実行するなら、教育熱心で“良心的”な大学として、学生は集まるでしょう」
そうした教育方針を過保護ととらえる向きもあろう。「しかし、多様な学生のニーズに応えつつ社会に有益な人材へと育て上げるという、教育機関本来の役割に立ち返るなら、きめ細やかな教育に努めるのは、レベルを問わずすべての大学が果たすべきミッションではないでしょうか」。
大学経営のプロ直伝の「良い大学を見分けるためのチェックポイント」など、受験ガイド的な要素も含んだ本書。しかし全体に通底するのは、良質な教育の提供というすべての大学に共通したミッションを果たすためには、教養教育の再興こそが鍵を握るという、豊富な改革経験に裏付けされた著者の強い信念だ。
必要な改革さえ施せば、日本の大学は必ず再生する。異色の大学人からの真摯なメッセージである。