素粒子物理学を切り口に、宇宙の謎に迫る。この世でいちばん大きいのが宇宙、小さいのが素粒子。10の27乗メートルと10のマイナス35乗メートルの世界だ。まるで関係なさそうに見える2つが、じつは密接につながっている。
「不思議ですよね」
冒頭で両者の関係性を、頭が自分の尻尾を飲み込んでいる古代ギリシャのシンボル「ウロボロスの蛇」をイラスト化することで、一瞬にしてわからせてみせる。とても咀嚼できそうにない難しい話ばかりのはずが、読んでいると、つい理解した気分にさせられてしまう。
「難しい概念を考えているときでも、頭に何かイメージがないと考えられないんですね。人に伝えるときは、そのイメージを言葉にするようにしている。もうひとつには日常生活で経験することで説明するとわかりやすいから、それをできるだけ使おうとしているのはあります」
たとえば、こうだ。
「買い物にいってレジ袋をもつでしょう。そのときに、揺れてしまって、うっとうしいことってありませんか。それは、手が動く周期とレジ袋が揺れる周期が合っているからなんです。袋が揺れるのを解決するには、持ち手の部分を手に巻いて、少し短くしてやればいい。じつは素粒子の共鳴も同じです。ひとつの音には決まった波長というのがあって、その波長のちょうど整数倍になっているヤツらというのは、一緒に震えたがる性質があるんですね」
ここで、すかさず「波長」を擬人化してみせるのも、著者ならでは。啓蒙する科学者だ。
「科学というと無機質で客観的なものと思われがちですが逆で、むしろとことん偏見をもつ。それがあるからこそ、自分の考えが正しいか、こういう実験や観測をしてみよう、計算をしてみようという情熱が生まれて、その情熱が原動力となって前に進んでいく。科学者同士の競争を含めて、わからないことを解明しようと、ワクワクしながら活動している。ドラマとロマンをもってやっているというのが伝わると、うれしいですね」