「そこには構造的な問題があります。派遣労働は、図のように三者間の関係で成り立っています。派遣元と派遣先が労働者派遣契約を結び、労働者は派遣先の指揮命令で働く。ところが、一番濃厚な関係である派遣先と労働者の間には契約関係がない。どうしても派遣先である企業の言い分のほうが強くなってしまいます」

派遣労働の仕組み

派遣労働の仕組み

中野弁護士はこう説明しながら、バブル崩壊後の“失われた10年”がもたらした競争社会によって、企業経営者が人件費をコストと捉え、削減を進めるための手段となったと指摘する。

しかも、現実はさらに労働者をむち打つ。業界最大手であるグッドウィル等が行っていた給与の不当天引きだ。同社は「データ装備費」と称して、派遣スタッフが受け取る賃金から、毎回200円を徴収、ピンハネしていた。

「これは、労働基準法で定められた『全額現金払いの原則』に抵触します。これまでの交渉で賃金としての過去2年分の支払いは回答されましたが、そもそも根拠のない不当な費用徴収から利得を得るというものですから、不当利得あるいは不法行為としてすべての期間にわたる天引き分全額の返還を求めて東京地裁への提訴に踏み切りました。総額455万円余りと金額自体はそれほど大きくありませんが、業界に与える波及効果は大きいと思います」(中野弁護士)

本来、派遣労働者を守るべき立場にある派遣会社にして、このていたらくだ。法の目をかいくぐった利潤追求の姿勢には、品位がないとしか言いようがない。こうした不条理をいかに排除していくか。

「まずは、セーフティーネットの構築でしょうが、一度定着してしまった非正規社員の誤った使い方を改めるのは難しい。良質な雇用を創造するには、経営側が雇用に関する倫理を持つこと。同時に、労働者にも現実に流されるのではなく、未来への展望を持って現状を変える働きかけが求められます」(同)

(ライヴ・アート=図版作成)