未来を捉えるために現代の構造を知る

経済学者の佐伯啓思氏は『20世紀とは何だったのか』で、西洋近代主義のもたらした「自由」「合理主義」といった人間中心主義的理念の数々に対して疑問を投げかけます。著者はここで、グローバルな自由経済になったために「企業は市場競争の奴隷になっていく」と語りかけています。そのような状況でこそ、市場原理とかけ離れた「徳」や「和」の価値を尊ぶという日本の伝統的な考え方が再評価されるべきではないでしょうか。成果を挙げるために過酷な労働が求められる時代に、終身雇用や年功序列など、日本企業の弱みだとされてきたものは強みに変わる可能性を秘めています。

ここでは知識を相互に関連づけられる本を選定しました。数冊読めば、歴史が交わる瞬間の面白さを味わえるはずです。

現代社会

見取り図を描くことこそが、「現代」を理解するカギ――『20世紀とは何だったのか』より

[1]『20世紀とは何だったのか』
  佐伯啓思/PHP文庫

著者の京都大学での講義「現代文明総論」をまとめた1冊。「現代とは結局、近代の延長線上にしかありません。その経緯や近代以降育まれた価値観と、その功罪がまとめられています」。

[2]『ロボット兵士の戦争』
  P・W・シンガー/NHK出版

安全保障問題の専門家である著者がどのように科学技術が軍事に使われているかを徹底的に解説。
「将来、人工知能が人類を支配するという『2045年問題』についても詳しい」。

[3]『精神と自然』
  グレゴリー・ベイトソン/新思索社

西洋・近代の合理主義批判を知るための入門書。「合理的ではない世界や人をどう捉えるのかの洞察が得られる名著です。本書から影響を受けた学者や思想家はかなりの数に上ります」。

[4]『ロボットは東大に入れるか』
  新井紀子/イースト・プレス

ロボット、人工知能の最前線を紹介。「人工知能開発の現状と、その本質的な問題点が描かれています。『ロボット兵士の戦争』と合わせて読むことで相対的な視点が得られるはずです」。

[5]『日本近代史』
  坂野潤治/ちくま新書

政治的な意味で日本がどう形づくられていったかを論述。「明治以降から現代社会に至るまで、どのような経緯があったかを体系的に知るうえで非常に読みやすく書かれています」。

作家 守屋淳
1965年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大手書店勤務を経て、中国古典研究家として執筆・講演活動。著書に『最高の戦略教科書 孫子』(日本経済新聞出版社)、守屋洋との共著に『全訳「武経七書」』(全3巻、小社刊)ほか。
(構成=小倉宏弥(プレジデント編集部) 写真(守屋氏)=石橋素幸)
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