頭やハートじゃない問われる“胆力”

そうして集められる社員の数は20人前後。研修期間や内容などは会社によって異なるが、図に示したプランが代表的な一例だ。通常の仕事をこなすことを前提に行われるので、実施期間は10カ月と長いが、その中で1泊2日の集合研修が10回前後行われる。

選抜研修プログラム全体像の一例
 

肝心の研修内容は、前半では自分の会社のDNAをディスカッションして言葉に出したり、経営の知識やリーダーシップについてインプットする。講師が一方的に話をすることはない。「競合するA社がこうした戦略をとったら、あなたならどうしますか?」といった意見が求められたり、グループで議論するといった形で進められる。

「実際にやってみると、競合他社の優れた点はおろか、自社の優位性も言葉にできない人が圧倒的に多い」(加島氏)

また、研修には自分の会社の役員たちも数多く参加する。そこで会社の歴史の神髄に触れたり、経営陣と対話する機会を何度か経ると、意識がガラリと変わるようだ。

研修の後半は、自社の競争力向上をテーマに、事業戦略、あるいは新規事業のプランを作るというアウトプット型の研修に進む。集合研修以外の日にやらなければならない課題も多い。「泥水を飲める人」かどうかのポテンシャルもここで明らかになる。

「マクロ環境のシナリオ分析では、研究機関や大学教授の下に足を運んだり、市場ニーズ分析ではアンケート調査も必要。もし自分の会社のシェアが2位だとするなら、1位の会社の顧客と自社の顧客に、何をポイントに選んでいるかをヒアリングすることも重要。そして経営陣を納得させるだけの材料を揃えることが要求されます。結果を見れば、どれだけこだわって調べたか、どれだけ自分の足や人脈を使って調べたか、いかに冷静に周りの声を拾ったかがわかる。頭とかハートではなく、“胆力”が試されます」(同)

研修の最後には、経営陣を前に、成果をプレゼンする。そして、研修全体を通しての評価がくだされる。若くして幹部候補として一気に注目を集める社員もいれば、ひとまず振り落とされる社員もいる。選抜研修は、あくまで人材発掘のきっかけにすぎないとはいえ、社員にとってはビジネスマンとしての未来を大きく左右されかねない、勝負の舞台ともなっているわけだ。