日付モノとは、記事中に掲載日の前日や当日の日付が入っている記事のことだ。記事中には単純に事実が記載されているだけで、独自の分析などは最小限にとどまっているという意味で、ストレートニュースと同じである。
例えば、4月1日付紙面で「オバマ政権は1日、新雇用対策を決める」と書くのは典型的な日付モノだ。「A社とB社は近く合併で合意する」という特ダネには具体的な日付が入っていないが、実質的には日付モノと変わらない。
逆ピラミッド型は日付モノに欠かせない。大ざっぱに言えば、記事の冒頭で最も重要な事実を書き、重要度の低い背景説明や識者コメントなどは記事の後半に回すやり方だ。通常、冒頭パラグラフ(第一段落目)に「5W1H(誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どうして)」を詰め込む。
ところが、キルゴアは「記事には『きょう』や『きのう』という表現は要らない。読者の関心は過去ではなく将来にある」と断じ、日付モノを否定したのである。当然ながらWSJの編集局内は混乱した。記者にしてみれば「過去24時間以内に起きた最新の重要情報を伝えること」こそがニュースであり、それ以外は考えられなかった。
なぜフィーチャー記事が必要なのか。世の中が複雑化していくなかで、ストレートニュースでは何が起きているのかをきちんと伝えきれないからだ。そもそもストレートニュースはラジオやテレビに任せればいい。インターネットの時代であれば、「速報性に欠ける新聞」がストレートニュースを重視する必要性はなおさら低い。
「きょう」や「きのう」に縛られないフィーチャー記事であれば、重要なテーマについて柔軟に幅広く報道できる。一般の人たちが気付かないうちに起きている変化もニュースだし、特定の人物や企業などの知られざる側面もやはりニュースだ。逆ピラミッド型と違って自由度が高いため、記者はネタの面白さや文章の表現力で勝負できる。
キルゴア改革の目玉として、WSJ一面の左端と右端がフィーチャー記事の指定席になり、社内では「リーダー(leder)」と呼ばれるようになった。WSJの造語であるリーダーの語源は、「トップ記事」を意味する「リーディング・アーティクル」だ。深く掘り下げた長文の読み物が毎朝、新聞の一面トップを飾るのである。
補足しておくと、アメリカの新聞では記事は上から下に向かって縦に流れ、WSJの一面では全六列(日本の新聞用語を使えば全六段)ある。左端の第一列と右端の第六列がリーダーの指定席になったわけだ。
リーダーは「一面トップはストレートニュース」という常識を覆し、大成功する。これによってWSJはアメリカ最大の新聞へ躍進するばかりか、WSJ流フィーチャー記事はアメリカの新聞界全体にとってお手本になる(ちなみに、リーダーは半世紀以上にわたって一面の第一列と第六列に置かれていたが、2007年の紙面デザイン変更によって定位置を失った)。
日本の大新聞とは対照的だ。今も昔も一面を筆頭に紙面全体が短い日付モノであふれており、ストレートニュースに傾斜しているのだ。「囲み」「タタミ」と呼ばれる読み物もあるものの、トップ記事扱いになることはめったにない。中面へ「ジャンプ」しないという制約などから、長さもアメリカのフィーチャー記事と比べると数分の一にとどまる。
言い換えると、日本の大新聞は70年前のWSJに近いということだ。にもかかわらず世界最大級の部数を誇り、大量解雇を強いられるほどの経営危機にも直面していない。なぜなのか。価格面で再販制度、情報面で記者クラブ制度に守られるなど、既得権益にあぐらをかいているからだろう。紙面の質を高める努力をしなくても、高給取りの記者を大量に抱えながら利益を出せたというわけだ。
逆ピラミッド型が禁じ手なら、どんなスタイルで書けばいいのか。フィーチャー記事の原型は、1940年代以降のWSJで試行錯誤のうえで生まれた。やや専門的になるが、典型的なフィーチャー記事は以下のような構成になる。
(1)逸話リード(anecdotal lead)─インパクトのある逸話を入れた前文
(2)ナットグラフ(nut graph)─「この記事は何のか」を要約する「知的」段落
(3)ボディー(body)─ナットグラフを補強する材料で構成する記事本体
(4)キッカー(kicker)─魅力的なコメントなどで全体を総括する最終段落