人間を動かすための基本ソフト(OS)には、生存を目的とした「モチベーション1・0」や、外的な報酬や罰による「モチベーション2.0」があると、ピンク氏は説く(下記図参照)。
「やる気!」の正体がわかった:ピンク氏が提唱するのは、社会がどのように機能するか、人間がどのようにふるまうかは、人間社会の基本ソフト(OS)=モチベーションに左右される、とする考え方だ。

だが、このOSが機能していたのは20世紀までの話。製造業の現場や事務的なルーティンワークでは「モチベーション2.0」も効果を発揮するが、来るべき“右脳型社会”では、わくわくしたい、向上したい、社会の役に立ちたいといった内的な動機が不可欠となる。職場の創造性を高めるには、「モチベーション3.0」へのアップグレードが必要だというのだ。

ここで問題となるのは、日本だけでなくアメリカでも、マネジメントの主流は、依然として「モチベーション2.0」であること。組織における意識変革は進むのだろうか。

仕事の内容が右脳的なものに変わっても、「アメとムチ」を使い続けている管理職は少なくないと思います。これは間違ったやり方です。「アメとムチ」は創造性を蝕む。クリエーティブな働き方には「モチベーション3.0」が必要なのです。

ただし「アメとムチ」もごく短い期間なら効果があります。新製品を企画する際、「いいアイデアを出した人には、2000ドルボーナスを出す」と上司が言えば、部下はやる気を出すでしょう。一生懸命に知恵を絞る。でも「アメ(報酬)」はドラッグやカフェインのようなもの。脳への刺激は一時的で、効果は持続しません。また、必死になったからといって、必ずしもクリエーティブなものが生まれるわけではないのです。

ところが、部下が動いたことで、「皆がやる気を出してくれた。自分のやり方は正しい」と上司は満足してしまう。それが問題なのです。

組織を管理する側にとって、「モチベーション3.0」は「2.0」より扱いにくいことも障害になります。2000ドルをちらつかせて、やる気を喚起するのは簡単ですからね。部下が間違いをしたときに怒鳴ることも決して難しくはない。

それに対し、部下の自由裁量を認めたうえで、仕事がうまく進んでいるかどうかを見極めるのは容易ではありません。部下の目的意識の向上を、上司はどうすれば確認できるでしょう?「3.0」を従来のマネジメントにとり入れることは、一筋縄ではいかないのです。

意識を変えるのはたやすいことではありませんが、現在、管理職の立場にある人は、立ち止まって考えてみてください。かつて自分が尊敬した上司は、部下の意見を無視して、「黙って俺の言うとおりにやれ!」と怒鳴るような人だったでしょうか。

自分にとってすばらしい上司は、部下にとっても理想の上司にちがいありません。自分がしてほしいように、部下にしてあげる。そうすれば、あなたの厚意に報いるため、部下も仕事で成果を挙げようと努力するはずです。

巨大な組織のなかで、個人が短期間に何かを変革するのはとても難しいことです。ですが、人が変われば、企業も変わる。誰かがはじめなければいけないのです。「何もしない」という選択肢もありますが、それではいつまでたっても何も変わらない。小さな一歩が大きな変化を生むのです。

(ノンフィクション作家 梶山寿子=インタビュー・文 相澤 正=撮影)