「介護の成功者」になることは、家族を守ることにつながる

加藤家では、春子さんがようやく義父の介護サービス利用の手配を終え、ケアマネジャーという良き相談者も得ることができ不安が少し解消された。

しかし、それだけで春子さんの負担が軽減したわけではない。デイサービスの利用を親族に理解してもらうことに苦労し、さらに1週間程度、義父を施設に入所させて春子さんがリフレッシュするショートステイもなかなか利用できなかった。家族は、他人に介護を任せることに罪悪感を持つものなのである。かといって、積極的に介護を手伝うわけでもない。

03年に、認知症を発症した母の面倒は、結局、春子さんが看ることはできなかった。2人同時に介護する必要があるため、母を自宅に呼び寄せると同時に、義父の高齢者施設への入所を考えたが、義父を施設に入れることは誰もが反対し、断念せざるをえなかったのである。結局、母を特別養護老人ホームに入所させることを決断。実の母親の面倒を他人に任せ、義父の介護を続ける。これが、要介護者を複数抱えた家族には起こりうる現実だ。

義父は、最期まで自宅で介護したが、結局、実の母親だけが介護施設で最期を迎えることになった。義母が亡くなったとき、涙も出なかった春子さんの気持ちを思いやると、理解のない家族がいかに高齢者介護を悲惨なものにするかが理解できる。

家族の介護力が必要とされる時代

家族の介護力が必要とされる時代

介護保険制度を利用すれば、介護はそれほど難しくないと感じるかもしれないが、現実は甘くない。介護保険制度は施行から8年が経過し、財政的に逼迫した状況で運営されている。介護保険制度が今のまま運営される可能性は低く、結果的に、家族の負担が今以上に大きくなっていくだろう。

高齢者施設はすでに満杯で、特別養護老人ホームの入所は3年以上の待ち時間を覚悟しなければならない。有料老人ホームは、高額なところが多く、安易に入所を決めることもできない。さらに、高齢者を受け入れる療養型病床も11年を目処に大幅なベッド数の削減が予定されている。

結果的に、高齢者の居場所は在宅にしかないという見通しが支配的だ。そうなったとき、問われるのは「家族の介護力」である。はたして、今、家族に介護を継続する力は備わっているのだろうか。

介護は、ひとつ間違うと家族を崩壊させてしまう危険性をはらんでいる。介護保険制度をはじめ、いくつもの福祉サービスの中身をしっかりと理解し利用法を学んでおく必要がある。「介護の成功者」になることは、家族を守ることにつながる。私たちは、そんな時代の中に立っているのである。