発行部数は約20万部まで積み上がり、その勢いはまだまだ止まらない『スクラップ・アンド・ビルド』。その誕生を支えたのはごくごくシンプルなデジタル文具だった!?

「ポメラ」(キングジム)というデジタル文具があるのをご存じだろうか。価格は2万~3万円ほど。ただひたすらキーボードで文字入力することに特化したツールだ。見た目は小さなノートパソコンのようでもある。だがネットサーフィンもできなければ、メールも、プリントアウトさえできない。現行機種のDM100は5.7インチの液晶画面に800×600の解像度しかなく、モノクロだ。

しかし、表示される文字は圧倒的にパソコンより見やすいと評する人も少なくない。ネットにつながらないのは、遊びの誘惑や雑音を遮断でき好都合とする声もある。電源を入れるとすぐに文字入力態勢に入れるのも大きな魅力であり、乾電池での長時間駆動をも可能にしている。支持層は、当然ながら文字を打つ機会が多い人である。

そのポメラを、いまやテレビでも引っ張りだこの芥川賞作家・羽田圭介さんも愛用しているというのだ。ただし、巷間「ポメラー」とか「ポメラニアン」と呼ばれる(あるいは自称する)熱狂的な愛好家とは一線を画す。その立ち位置はいたってクールだ。

芥川賞作家・羽田圭介氏

「電源をつけてすぐに書ける状態になるのはポメラの魅力なんですけど、パソコンでそれを実現してくれて、画面がポメラと同じように目が疲れにくい形で表示されるのであれば、そちらを買います。それを使って、ずっと仕事をしていたいですね。50万円出してもいいです」

そんな羽田さんがポメラと出合ったのは、5年ほど前のこと。

「家電量販店で実物(DM20、現在は製造終了)を見て、とにかく目が疲れなさそうというのが第一印象。画面表示はバックライトなしで、本当に紙に印刷された文字を見るのとあまりかわらない感じでした。これはいいな、と思いまして」

文字と向き合う時間が長い作家にとって、目の疲れは大敵。オフィスで1日中パソコンと向き合う人なら、その気持ちは痛いほどわかるだろう。