【新井】結局、マナーって「ビジネスを円滑に進めるために相手に失礼のないようにする」っていうのが一番大事なところですもんね。でも、大企業は恒例行事のように研修を開くから、たまに「やっちゃった!」ってことがあるんですよ。たとえば先日、ある企業の研修に行って「名刺交換は~」って説明を始めたら、会場が何だかザワザワしてるんです。おかしいなと思って「どうしました?」って聞いたら、その人たちは全員コールセンターのオペレーターになることが決まってて。つまり、仕事で外部の人と名刺交換する機会なんかほとんどない人たちなんですよ。そうとわかっていたら、電話応対中心に言葉遣いの話をしたり、クレーマーへの対策の話をしたりもできたんですが、担当者からは「基本的なマナーを教えてください」って言われただけで。

【東出】あるある(苦笑)。担当者がいい加減だと、困っちゃいますよね。

【新井】そう。「マナーの基本」で資料も用意してきちゃってるから、その段階で講義の内容を変えることなんかできないんですよね。「私はこの人たちにまったく必要のないことを教えてる」と思いながらの2時間は地獄でした。

【高橋】うわぁ、お気の毒。

悪徳業者が講師の信用を奪う

【東出】あと、「本当の評価」ができないのも悩みのひとつ。研修の後、社員がどれくらいできたか、できなかったかを報告するんですけど、担当者に「御社の社員、全然マナーがなってませんでした」とは言えませんよ。どんなにダメでも「みなさん熱心に聞いてくださいました」「実りのある研修になったと思います」みたいな。

【黒田】そういうものですよね。私なんか、企業への報告メールはほとんどテンプレートにしちゃってるかも(苦笑)。でも、「評価を担当者に送る」という行為を悪用するひどいマナー講師もいるみたいですよ。講師が社員の評価をするように、社員にも講師の評価をさせて「いい研修だったか」を確認する企業は結構多いんです。でも、その感想を書かせるときに「私たちもみなさんの研修の様子を人事部に報告します」と一言脅し文句を添えるだけで、あまり悪い感想は書けなくなりますよね。それでも研修の悪口を書くような社員に対しては、悪い評価をつけ返して「全然真面目に聞いてくれなかった」と報告するらしいんです。そうすると、担当者には「反抗的な社員が悪い評価をつけた」としか思われずにすむという……。