「産業数学」というのは聞きなれない言葉かもしれない。高度な数学を幅広い産業分野で役立てるための数学を意味する。私が所属する九州大学マス・フォア・インダストリ研究所は、文字通り「産業のための数学」を研究するために2011年に設立されたアジアで初めての専門機関だ。産業界と連携した共同研究実施部門である「富士通ソーシャル数理共同研究部門」を設けるなど、産業数学の国際的拠点を目指して活動している。
いまや数学は情報セキュリティー、ネットワーク、CT・MRIなどの医療技術、航空機や自動車の開発、溶鉱炉・原子炉の制御、運輸・流通業におけるスケジューリング、そして金融・保険、資源探索、災害予測の分野など、現代社会をけん引する高度テクノロジーのほぼすべてに関係しているといえるのだ。
たとえば、私が専門とする数理最適化も、早くから産業分野で使われてきた数学の1つだ。身近なところでは、エレベーターの群管理がある。オフィスビルなどでは複数台が稼働しているが、利用者が各階で待っているとき、どの「かご」を何階に動かしたら、全体の待ち時間が最小になるかを考慮しながら動いており、この技術に数理最適化が応用されている。あるいは、インターネットで電車の経路を調べる路線検索も同様で、一番早い、または安いルートはどれかというのは、まさに最適化の応用事例である。このように私たちの生活の中で、数学はさまざまな場面で使われているのだ。