定年退職が視野に入った50代にとって、住宅ローンをどうするかは老後生活を左右する大問題だ。
現在50歳前後の人が30代になったころ、世間はバブルの真っ盛り。住宅を買ったのは40代になって地価が下がってから、という人も少なくない。住宅購入から子どもの進学と、お金のかかる日々が続き、やっと一息ついた今、気がつけばまだ20年も住宅ローンが残っている……というわけだ。
このまま何もせず定年退職まで住宅ローンを払い続けるケースをシミュレートしたのが図の[A]。夫は50歳で年収800万円のサラリーマン。10年前に3000万円のローンを組んで住宅を購入、返済期間はあと25年ある。住宅の頭金と子どもの進学に貯金を使ってしまったため、現在の貯蓄は400万円。妻はパートで年収100万円を教育費に充てている。下の子が大学を卒業したらパートをやめて、少しはゆとりある暮らしを楽しむ予定だ。
ごく当たり前の家計のようだが、このケースでは65歳時点で貯金が底をつき、家計は破産に陥る。なぜか?
その最大の原因が住宅ローンにある。住宅ローンの残債は、60歳時点で1300万円以上。2000万円の退職金の過半がローンの返済で消え、老後資金に充てることができないのだ。
実は、50歳の今から工夫すれば、破産を防ぐことは難しくない。それが[B]のシミュレーション。[A]と違うのは下の子が大学を卒業した後の生活で、(1)妻が仕事をやめずにパート収入で毎年住宅ローンの繰り上げ返済を行う、(2)食費など基本生活費を1割カットする、の2点だけだ。
子どもたちが独立すると、ほっとして節約する気力をなくしてしまう家庭も多い。しかし、本当はここからが老後準備の本番だ。食欲旺盛で、ときには小遣いをねだる子どもたちが出て行けば、生活費の1割カットは難しくない。ここでは実行していないが、必要な死亡保障額も減るのだから、生命保険の削減も可能だ。何より、住宅ローンの定年完済を目標に妻がパートを続けることで、気が緩むことなく節約モードを継続することができるだろう。
定年退職後は、収入が大幅にダウンする。そのときに備えて、50代は節約生活に慣れておかなくてはならない。住宅ローン定年完済計画は、そうした意味でも大きな効果があるはずだ。