意思決定や議論の際は、何事も数字で定量化して考えることが大切です。数字で測定できないものは改善できないのです。たとえばあるやり方でコスト削減をすると、トレードオフで品質が低下するとします。そのときコストはどれだけ削減でき、品質はどれだけ落ちるのか、定量化してそれぞれの規模感を把握しないとそのやり方を採用すべきかどうか判断ができません。
とくに企業組織の場合、担当者の立場によって課題が異なることがあります。品質担当者が「品質低下は絶対に認められない」と言い、営業担当者が「そんな商品は売れない」と言い合っていたら議論になりません。そこで定量化するのです。たとえば製造方法を変えるといくらコストが下がり、販売予測はどのように変化するのか。数値に置き換えて説明する。そこではじめて、同じ土俵に上がって議論ができるようになるのです。
意思決定に必要な数字の「粒度(りゅうど)」は内容によって異なります。「広告宣伝費を減らすと売り上げに影響が出る」という議論をしているとき、売り上げの減少は1億円なのか10億円なのか、だいたいの数字がわかればいい。一方で食品の安全基準はより明確でなければなりません。数字を使って議論するときは、どの程度の粒度が要求されているかを考えて定量化することが大切です。
「人の心理」を定量化する
日本人はもっと数字を使った議論に慣れたほうがよいと私は感じています。その際、数字を「因数分解」し「それぞれの数字に何の意味があるのか」を考えることが重要です。
ある商品の売り上げを伸ばす方法を例に考えてみましょう。まず、消費者に商品の存在を認知してもらう必要があります。ターゲットになるセグメントの大きさはどのくらいで、その中で当該商品を認知している人は何%いて、実際に購入した人は何%で、その中からリピーターになったのは何%か――。
因数分解が終わったら、各項を項目毎に定量化していきます。ポイントは、数値化しにくい定性的な情報も定量化することです。因数分解した結果、「売り上げを伸ばすことは難しく、撤退したほうがいい」という考えに至ったとしましょう。ここで結論を下すのは早計です。撤退するとなったときの社員の心理面のショックを直接的に数値化することは難しいので、たとえばそれを生産性の低下に置き換えてみる。数字がない場合には「そんな数字はありません」で終わるのではなく、近似値や代替指標を探し、定量化していくのです。