学歴の壁を感じた「害虫駆除」の求人

94年、20歳のとき、上京し、東京工業専門学校(渋谷区)に入学した。バイオテクノロジーについて学ぶ。就職活動のときは景気が悪く、「就職氷河期」と呼ばれていた。

「専門学校への求人は、とにかく少なかったです。印象に残っているのは“害虫駆除”という求人でしたね。つくづく、学歴の壁を感じました。それでも、私は会社員になる考えはなく、自分で人生を切り拓きたかったのです」

専門学校在学中の頃からアルバイトをしていた飲食店で、バーテンダーとして働くことにした。映画『カクテル』(88年公開)の主演、トム・クルーズに憧れていたことが、1つのきっかけだった。

「当時は独身でしたから、女性にもてたいと思ったのです。トム・クルーズがあまりにも恰好よかったから」

新宿や銀座などの店に勤務し、バーテンダ―を養成する専門学校にも通った。3年が過ぎた25歳のとき、店長になることができた。

独立心がまた湧いてきた。店長をすると、ほかの店を含め、会社全体のマネジメントの問題点を感じ取る。だが、それを変えることができない。

「自分がやりたいことは、本当は何なんだ。こんな思いになり、焦る日々でした。高校の頃に読んだ本を思い起こしたのです。そこには、海事代理士などが載っていました。海の近くで生まれ育ったこともあり、船などには関心があります。独立もしやすい資格ですから、試験を受けてみようと思ったのです。ひとりで生きていきたいという思いは強くなるばかりでした」

27歳のとき、退職した。2003年、30歳で海事代理士の試験に合格した。海事代理士会にさっそく登録をした。住んでいたアパートの4畳半の一室に「まつもと海事事務所」を立ち上げた。だが、客をなかなか獲得できない。

「ボロいアパートでしたから、お客さんから電話があっても、事務所に呼べないのです(苦笑)。でも、曲がりなりにも一国一城の主になり、うれしかったですよ」