その旅館の温泉で偶然に関さんは旅館の親父さんと2人きりになった。2人で湯につかりながら「いよいよですね」と声をかけると、親父さんはうつむきながら「51年だぞ」と呟いた。政府の政策に振り回されて51年が経つという心の叫びだった。

「重たい言葉でした。記者になって、この親父さんのように陽の当たらない人たちの人生をレポートしたいと感じました」(関さん)

大手マスコミを狙い就職活動に乗り出した関さんだが連戦連敗。「ほかの業種にも手を広げようとした矢先、第一志望のNHKから内々定の知らせが入ったんです」(関さん)。

NHKから内々定を得られた理由として関さんは、「ジャーナリズム実践教育コース」での経験が大きかった、と推測する。確かに、関さんがゼミ活動で得た八ッ場ダムの話などの経験談は、この人は陽の当たらない人のために懸命に働く記者になるだろうな、と思わせるのに十分だ。

「超就職氷河期」到来で大学に“レジャーランド”の面影はない。

「超就職氷河期」到来で大学に“レジャーランド”の面影はない。

亜細亜大学キャリアセンターの成田剛課長は「内々定を得た学生に共通するのは、経験を通して得た人間的魅力が素晴らしいこと」と語る。

今回取材した4人は皆、礼儀正しく丁寧で、人としての印象がとてもいい。そして経験談に説得力がある。

また、高校や大学の早いうちからやりたい職業を見つけたこと、それに応じて目的意識を持って充実した大学生活を送っていること、体育会の部活で懸命に努力した経験があること、リーダー経験があること、など具体的な共通項があった。

興味深いのは、皆、大学での成績がよいわけではないことだ。出身高校も偏差値の高い名門校ではない。成田課長も、学業成績と就職の成功は相関関係がない印象、と言う。

これまでの人生で培われた豊かな人間力があれば、高偏差値大学出身でなくとも、東大生でもなかなか入れない超難関企業に入社することはできるのだ。

(上飯坂 真=撮影 PIXTA、AFLO=写真)