かつての日本人もブランドものを求めて世界各地を旅行して歩いたが、今の中国人ほど激しい変化はなかった。日本人は海外・国内に関わらず、いまだに団体旅行が好きだし、日本人の嗜好の変化は緩やかである。だから、つい自分たちと同じように、ゆっくりペースで考えてしまうのだが、それは危険だ。中国人の興味の変化は“ドッグイヤー”より早いといっても過言ではない。

中国では3年ほど前からスマホが流行り出したが、わずかの間にあっという間に人口の半分以上の人々がスマホにかじりつき、スマホがなければ生活が成り立たないほどのめり込むようになった。情報伝達も同様で、老人であってもスマホのSNSを使いこなすのが普通だ。また、そうでなければ、中国では他人においていかれるのである。

日本人の思考で一方的に「きっとこうすれば中国人観光客は喜ぶだろう」と考えていても、空回りしてしまう。日本では中国の政治経済のニュースは大量に流れているが、彼らの日常生活や考え方については、ほとんど報道されていないからである。

中国人と日本人では生活の「基本」が異なる。たとえば、日本では赤信号では止まり、青信号では進むのがルールだが、社会システムがほとんど機能していない中国では、必ずしもルールに従うことが「よいこと」とは限らない。自分の目と耳で状況を判断しなければ、命取りになる。中国人が列に並ばないのも「並んでいたら、自分の順番は来ないのでは……」、「コネがある誰かに先を越されるのでは…」という潜在的な不安感があるからだ。

日本人から見れば「どうしてそんなことをするの?」「マナーがなっていない」と思うが、中国ではまだシステムが機能していないことがたくさんある。悪気があるわけではなく、日本にきても、中国のルールをそのまま持ち込んでしまうため、日本人に誤解されたり、悪印象を与えてしまうが、彼らは国内事情を引きずったまま、海外旅行に出かけている。

しかし、そんな状態が長く続くとは思えない。海外を経験した人は次第に「学んで」いっている。

そんな「相手の事情」や「日中の違い」をほんの少し念頭に置くだけで、彼らに対する見方は変わってくるのではないだろうか?

本書では、中国人独特の考え方や行動原理を始め、彼らがなぜ日本を目指すのか、複雑な社会から見える「中国人にモノが売れる仕組み」、日本人が眉をひそめるマナー問題、流行の先端を行く人々の動向、中国人の対日観、などに焦点を当てた。

日本側から見た「爆買い」現象だけでなく、中国人側から見た「爆買い」の理由も紹介することで、日中両国にとって、少しでも誤解をなくすことができれば幸いである。

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