過去を健全に否定することがポイント

そして、まず岡田氏が新商品開発で考えたことは、自社の強みと新市場を連結させることだった。岡田電気工業の強みである熱処理や制御、検査などの技術が、これからも内需の成長が見込まれる医薬品や食品の市場と結び付けばチャンスはあると考えた。あるエンジニアが「容器に巻いたフィルムを熱で縮ませて包む『シュリンク包装』の機械を、低コストで小型化できれば新規参入のチャンスはある」と提案してくれた。

速攻で開発に取り組み、01年9月には商品化に成功した。しかし、半年間受注はゼロだったうえ、数台受注した製品でクレームを起こして撤退も視野に入ったが、クレーム情報を丹念に洗い、それを製品の改良に着実に結び付け、地道な営業を続け、業界で徐々に評判が広がった。新規事業に取り組む過程で、生え抜き社員の間で摩擦も起こったが、それが企業文化を変える起爆剤にもなったそうだ。

今では取引先も多岐にわたり、全国の主要な製薬、食品、化粧品メーカーに自社ブランドの「トルネード」で包装機械を納入している。岡田氏は「もしあのとき、業態変換するとの決断がなければうちの会社は潰れていたと思います」と語る。現に薄型テレビは国内では値引き合戦によって大きな収益は期待できず、液晶などのデバイスも韓国や中国から追い上げられ、かつてのメモリー事業のような状況に追い込まれている。

岡田氏が会社を引き継いだときの売上高2億円は、ほぼ100%が東芝からの受注によるものだったが、2015年9月期の売上高5億5000万円のうち東芝からの受注はゼロだ。大卒の新卒の採用も強化し、社員数も倍増して22人になった。「事業継承や世代交代を成功させるためには、経営者が引き継いだという意識を捨て、過去を健全に否定することがポイントの1つ」と岡田氏は言う。

岡田氏は新規事業をシュリンク包装の機械だけに留めなかった点も興味深い。家業を引き継ぐまではコンサルタントをしていた関係で、岡田氏は、技術を持ちながら、組織風土を変えられなかったり、社員が育たなかったりして、事業を伸ばせない中小企業を多く見てきた。「うちの会社の変身ストーリーはコンテンツになる」と岡田氏は判断。今では岡田氏自身が講師となり、大阪ガスが展開するMOT(技術経営)スクールの人気講座となっている。