技術を習得した過程を覚えているから教えられる

川淵さんがコーチに向いている理由は、ゴルフが上手なこと以外にふたつある。

ひとつめは「初心者だったころのプレーと気持ちを覚えている」ことだ。

どんなスポーツであれ、「ジュニアのころからやっていた」スポーツエリートは下手だったころの記憶をなくしてしまっている。教える相手の心理状態や技量を把握せずに、「どうしてこんなことができないのか」などと叱ってしまう。

そんな人はスポーツエリートとしてやってきた時代が長いため、下手な人や初心者の気持ちに寄り添うことができなくなっているのである。

『川淵キャプテンにゴルフを習う』(野地秩嘉著・プレジデント社)

その点、川淵さんは一般ゴルファーと同じように社会人になってからゴルフを始めた。20代後半から30代のころのスコアはハーフで50前後。ごく普通のアマチュアゴルファーだったのである。

そんな普通のゴルファーが練習を重ね、自分で工夫をしながらシングルプレーヤーになった。学ぶ者が知りたいことは、上級者の技術ではなく、「どうやって技術を習得したのか」である。初心者、中級者は具体的な練習方法、コースでの応用方法が知りたい。

「こう打つんだ。よく見ておけ」は指導でも何でもない。自慢の技を素人に見せたい人が言う言葉だ。

川淵さんの場合は「僕はこうやった。すると、こんなミスが出た。だから、やらない方がいい」という教え方である。初心者の気持ちがよくわかっている。ゴルフの技術だけでいえば、プロゴルファー、レッスンプロの方がはるかに川淵さんよりも上手だろう。しかし、川淵さんのいいところは、「自分が上達していった過程」を他人に教えることができる点なのである。