>>【前編:首都圏】http://president.jp/articles/-/16799

余力を期待できる地域のひとつが西日本だ。ここでは都市部の危機的な状況をみるために近畿圏で評価しているが、京都府や和歌山県には比較的、恵まれた地域があることがわかる。医療に関しては、全域で首都圏より余裕があり、最高レベルの「V」に該当する地域はない。しかし楽観視はできない。首都圏と同じくベッドタウンとなっている地域や工業団地があり多くの労働者を抱えている地域などは、人口構成が比較的若く、高齢化が進めば医療や介護は急速に逼迫してくるだろう。

一方、中部圏では、愛知県が厳しい状況になることが予想される。特に医師不足、介護難民のいずれも最高レベルの「V」になったのが「豊田市、三好町」だ。愛知県は人口構成が若かったため、病院の受け入れ能力はほぼ全域で全国平均を下回る。介護施設の余裕も少なく、注意が必要だ。

「要介護」の前に地方都市へ移住を

このような医療・介護の状況変化にどう対応すればいいのか。前述の通り、そのひとつの処方箋が「老後移住」である。そのポイントについて、国際医療福祉大学の高橋泰教授に聞いた。

私はわが国の人口構造の変化に対する処方箋として、数年前から、国土の均衡ある発展のためにも、個人の幸福度を上げるためにも、大都市圏から地方の中核都市への移住を推奨している。

高齢者が地方に移住すれば、移住者側だけではなく、受け入れる側にもメリットがある。特に人口減に悩まされている地域では、医療資源がだぶつき、医療産業の存続が危ぶまれている。そういう地域に人が移動すれば、一定レベルの医療提供体制を維持でき、街の活性化も期待できる。

私が「老後移住」をすすめる具体的な地域としては、東日本では、北海道の旭川、室蘭、函館、東北の弘前、秋田、北陸の富山、金沢、福井、長野の佐久、松本、関東では鴨川などがある。

また西日本では、岡山、倉敷、呉、米子、松江、出雲、高松、坂出、松山、徳島、高知、北九州、別府、久留米、長崎、佐世保、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島、那覇などがある。

このような地方の中核都市には、映画館があり、しゃれたレストランもある。しかも東京より物価が安い。よく聞くところでは、「徳島の20万円≒東京の30万円」である。この使い勝手の感覚をもとに、「都内在住、年金生活、団塊の世代」という夫婦が、徳島に引っ越した場合、どのように生活が変わるかを試算すると、

▼夕食の品数が一品増える
▼2LDKが3LDKに
▼年に1回程度、家族旅行が可能に
▼病気のときには県立中央病院や日本赤十字病院などへすぐに入院できる
▼要介護では施設に入所できる可能性が23区内の100倍以上

といった生活の変化が予想される。この事実を多くの人が知れば、移住を考える人も増えるだろう。

地方出身者であれば郷里に帰ることが第一だが、定年後、すぐに上記に示したような地方の中核都市に移住すれば、地元のボランティア活動などを通じて新しい人脈を築くことも可能だろう。そういったポジティブなシニアライフは、素敵な生き方だと思う。

「老後移住」のためには、要介護になってからでは遅すぎる。定年後に検討するのではなく、前もって計画を立てておき、リタイアしたらすぐに移住の準備をするといいだろう。